因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

スタジオソルト番外公演WS#1『バルタン』

2015-05-16 | 舞台

*椎名泉水作 元田 暁子(DULL-COLORED POP)演出 公式サイトはこちら 神奈川青少年センター多目的プラザ 17日で終了 1,2,3,4,5,6,6`,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18) マグカル劇場参加公演
 スタジオソルトでは、劇団員のレベルアップを目的に、演出家の元田暁子(DULL-COLORED POP)を招いて、数か月にわたるワークショップを行った。その発表の場として今回番外公演の運びとなったとのこと。いずれもはじめての試みだがそうとうな刺激になったらしく、そのあたりは座長の浅生礼司と山ノ井史へのインタヴューをに詳しい。公演の折込あり、WEBサイトでも読めます。

 場所はおそらく横浜のどこか。ある建物のなかに数人の中年男たちが監禁され、小さな箱を作る作業をさせられている。彼らを支配しているのはふたりの女子高校生だ。男たちを名前でなく犬、鳥、牛、豚と呼び、問いかけには動物の鳴き声で応えるよう命じる。食事もパンひとつがやっと。気に入らないと食べさせない。究極は「バルタン」というゲームである。これに負けた男は写真を撮られたのち、小さな箱を首に下げて部屋から連れ出される。爆音のようなものがかすかに聞こえ、その男は二度と帰ってこない。直接的な暴力ではなく、子どもじみたゲーム、監禁ごっこのような扱いで彼らを翻弄し、最後は死に至らしめる。

川崎市で中学一年の男子生徒が暴行のあげく殺される痛ましい事件が起こった。傷や痣のある少年の笑顔、それが何らかの権力によって作らされたものであってほしくない、その先にイスラム国の暴挙が連なるのでは・・・この作者の思いが60分の物語を綴らせた。

 演出家を外部から招いて、劇団員のための長期ワークショップを行うこと、それが番外公演に結実したことをまずは喜びたい。制作の過程も作品の性質も、これまでのスタジオソルトにはなかったものであり、劇団の良いところも問題点も含めて劇団員が的確に把握しており、よりよい舞台を作り、劇団として活動を継続するために必要なことを堅実に行ったことがわかる。

 近未来のSF風の設定のなかに、現実の事件や事象を落とし込む劇作は、両刃の刃である。現実と芝居の設定との距離をどの程度のものにするのか。(いまのところは)ありえない物語だが、そこにヒヤリとするような現実感覚をどのように滑り込ませるか、どこに現実味を持たせるか。

 ここでは女性によって男性が支配されているらしい。理由もなく拉致監禁され、ひどい扱いを受けたあげく殺される。救出の希望はなく、捕まったら最後である。5人の男たちを牛耳っているのは制服を着た女子高校生がたったふたりなのだから、隙を狙っていくらでも逆襲することができそうに見えるのだが、それができないのはなぜか。彼女たちをさらに支配している上層部の存在があるらしいことは匂わせるものの、最後まではっきりしない。そもそもなぜこのように異常な状況になったのかが示されないのだ。

 この構造には賛否が分かれるだろう。普段着の日常的な物語ではなく、観客をいきなり謎のなかに放り込むような芝居である。どうしてだろうと疑問をもち、答をみつけること、たどりつくことがもどうして観劇の目標になる。その目的を果たす作劇もあれば、そうでないところへ導く方法も、もちろんありうる。
 たとえば捕まった中年男たちは、いずれもかつて女子高校生たちにセクハラをした教師であったりといったベタな展開では、自爆テロを強要するところまで話を重くする必要がなくなるだろう。

 たとえば川崎市の中学生殺害事件は、小さなことが積み重なってエスカレートし、学校も警察も彼を助けてやれなかった痛恨の事件である。ここまでひどいことはめったにないと思いながらも、子ども同士の諍いがとりかえしのつかない結果になること、自分のかたわらにいる子どもにも、このように命が奪われるほどの危機の可能性があることが、世間を震撼させたのである。
 またイスラム国の暴挙が報道されない日はなく、その波がこの日本にぜったいにやってこないという保証はどこにもない。

 特殊な設定を生身の俳優が立体化するところに、この種の作品の旨みがある。巨大組織の存在が感じられないことや、大の男が5人もいて小娘にいいようにされていることや、子どもじみた罰ゲームの敗者が殺されていくこと、これらの事象をつなぐ核がほしい。宙に浮いた状態の劇世界の軸足をどこに置き、どこに着地させるか。それを説明的でなく、あざとくなく行うにはどうすればよいのか。必ずしも観客の理解や納得のためだけでない、「演劇的必然」とでも言おうか。そこを見たいのである。 

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