* 公式サイトはこちら 花まる学習会王子小劇場 9日まで
東京、関東の学生演劇の交流、刺激の場として2015年に始まったフェスティバルが5回めを迎えた。ABC3つのブロックに各3劇団、合計9つの団体が競演する。贈賞は、大賞(審査員選出…受賞団体は2020年2月開催の全国学生演劇祭の参加権獲得)、観客賞(観客投票…2020年3月ころ予定の都内小劇場での対バン公演参加権獲得)、実行委員賞(観客賞に同じ)。40分の上演後、10分で舞台転換し、次の団体が上演する。まずはAブロックを観劇した。
◆くじらシティ(早稲田大学)
坂井高久脚本 永瀧かづみ演出『端-Edge-』…太平洋戦争中、故郷に許嫁を残して炭鉱のある島に旅立つ青年。そこで「連れてこられた」という小柄で不器用な若者に出会う。詩を書く彼と青年は、次第に心を通わせるようになる。
普段は等身大の現代劇を中心に上演しているが、今回初めて社会派劇に挑戦したとのこと。おそらくさまざまな資料を紐解いたことだろう。そこに眠る夥しい声なき声から、たったひとつの声を聞きとり、主人公の青年を舞台に立ち上がらせた。台で段差を作っただけのシンプルな美術である。許嫁が上の段から手を振り、手前に青年が立てば出船の見送りになり、上段に膝をつき、姿勢を低くして後ろに進む動作によって、青年が斜坑に降りていく様子を示すなど、ぎりぎりまで表現を削ぎ落したことが効果を上げた。ドキュメンタリー風でもあり、どこか幻想的な雰囲気もあり、60分、90分の中編に展開する可能性を秘めている。誠実な姿勢がまっすぐに伝わってくる舞台であった。
◆名前はない劇団(埼玉大学)
伊藤セナ作・演出『濃藍』…容姿に自信が持てないセイは、大学生になって外見を整えることを覚え、もともとの優しい性格もあって付き合いが増えた。バイトも忙しく、夜は誘われるままにいろいろな友人と食事をする。大学では何となく授業も学食もいつも一緒に行くアズがいるが、恋人というほどではない。そこへ合コンで知り合ったアイが強引に迫ってきた。
彼らは明確な二股交際や、互いに火花を散らす三角関係に至らない。それを象徴するのが、(記憶によるものなので正確ではないが)「あたしたちって、付き合ってるんだよね?」、「俺たち、付き合ってるっていうんじゃなくて」的な台詞の数々である。本作に限ったことではないが(テレビドラマ『きのう何食べた?』でも何度か)付き合っている=自他ともに認める恋人同士であることを指すなら、「お互いに好き合っている」、あるいは「愛し合っている」となぜ言わないのだろう。幼い言い方だが「両想い」でもよい。
好きという気持ちではなく、付き合っている、交際しているというアクションがあるか否かで、互いの関係を確認することが非常にもどかしいのだが、そのもどかしさもまた本作のみどころのひとつである。セイ役に男性ふたりを配し、女性たちのあいだで煮え切らないところや、自問自答する様子を効果的に見せ、常に自分の気持ちではなく、相手の出方に流されていた彼が、最後の最後、自分から相手に手を差し出す終幕、不覚にも心を打たれた。男女3人の小さな世界を背伸びせず、丁寧に描いた佳品である。
◆はりねずみのパジャマ(日本大学)
パイロン久我作・演出『楽しみましょう』
高校時代からの友だち男女がパワースポットへ行こうと車で出かけたが事故を起こし(人身ではない)、足止めされた。現場近くの大きな家に住む娘と祖父の厚意で、一晩そこに泊まることになる。シャンプーから化粧品まで、あまりに行き届いたもてなしに嬉しいやら驚くやら。しかしどうも様子がおかしい。
前の2作に対して、少なくとも最初はリアルな設定で、下手にはドアの装置が作られ、小道具もいろいろ、7人の登場人物の出入りも多い。旅先でアクシデントに見舞われた。偶然居合わせた人の親切に甘えているうちに、恐ろしいことが…というホラー風の展開には既視感があるが、レンタル友だちに象徴される見栄の張り合いはじめ、彼らの本音が炙り出され、晒されていく描写に達者な手並みを見せる。欲を言えば、不思議の館の娘と祖父が何者なのか、なぜこのようなことが起こるのか、安易な謎解きや説明は興ざめだが、何らかの落としどころ、観客に想像させる糸口がほしい。ここまで来たら、背筋が寒くなるような予感を抱かせて観客を放り出すくらいのブラックな暴力性があってもよかろうかと。
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