因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

the PLAY/GROUND vol.0 『背信|ブルールーム』より『ブルールーム』ver.A

2016-01-09 | 舞台

*デヴィッド・ヘア作 井上裕朗演出 公式サイトはこちら シアター風姿花伝 10日で終了
 『背信』初日の熱気に負けず、この日も満席の賑々しさ。小さな劇場ぜんたいで、開幕をわくわくと楽しみに待つこのような空気は、なかなか味わえないものだ。

 『ブルールーム』は、2001年冬にデビッド・ルヴォー演出の舞台を見たことがある。内野聖陽と秋山菜津子がそれぞれ5人の登場人物を演じ継ぐ形式をとり、この舞台の演技によって、秋山は上演期間中に紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した。
 今回の上演では、俳優は一人一役、つまり男女各5人、合計10人が登場する。ver.A、B、Cの3つのバージョンがあるので述べ30名(一部同じ俳優が出演する)の俳優が演じたことになる。翻訳、演出の井上裕朗によれば、戯曲には配役についての指定は特にないとのこと。となると、この戯曲の何を見せたいかによって、作り方は大きく異なるわけだ。

 自分は今回の上演を大変おもしろく見ることができた。内野、秋山という実力派の俳優が年齢や性格、背景も異なる人物を演じ分けるルヴォー版よりも楽しんだと言ってよいだろう。一昨日の『背信』でも感じたことだが、戯曲の構造や魅力をより強く感じとることができたためである。
 路上に佇む若い女とタクシー運転手が出会ったことにはじまり、次の場はタクシー運転手とオーペア(注:オーペアとは海外にホームステイする家庭の子どものベビーシッタ―をしながらホストファミリーから報酬をもらって現地の学校へ行くこと、滞在先を提供してもらうことらしい。しかし本作では住み込みのメイドの風情)、次はオーペアと学生といった具合に、男女の出会いと別れが片方ずつ重なりながら連なってゆき、最後は女優と別れた貴族が、冒頭場面の若い女と一夜を明かした翌朝で幕を閉じるものだ。

 前述のように、男女それぞれ5人の人物はいずれも大きく異なるものであるから、それを1人で演じ分けるとなると、相当な演技力が必要である。早変わりと言わないまでも、次の場のための時間がじゅうぶんあるわけではない。心身の切り替え、見せどころの強調、それでいて第1場から第10場までのゆるやかなつながりを示さねばならない。内野と秋山の演じ分けは「まさかこの役を」というものもあって、「巧いなあ」と舌を巻くところが随所にあった。しかしながら、こういった形式を取ることには長短あって、どうしても俳優の技巧、いかに達者に演じ分けるかという点に注目してしまい、物語ぜんたいをとらえることが疎かになってしまうのである。

 井上裕朗が提唱した「PLAY/GROUND=俳優たちの遊び場」の『ブルールーム』は、男女10名の俳優に適材適所の配役がなされていることもあり、俳優は自分の持ち場を誠実につとめていた。のみならず、ひとつの場が終わると、大道具小道具の移動や配置を手際よく行い、つぎの場を整えていく。これは上演の都合や段取りといったことを越えて、チームが力を合わせて舞台を作り上げようとする姿勢でもあるだろう。
 また大きな収穫は、「いつかこの俳優で、あの役を演じてみたらどうだろう?」といった先の楽しみまでも想像できたことだ。一例が学生を演じた石綿大夢である。女性に対してまだうぶな若者で、オーペアの謎めいた魅力に惹きつけられながら、相手が使用人であることに空威張りする。なのにつぎの場では大胆にも人妻を誘惑しており、これから彼がどのようになっていくのかと興味をそそる。ふと石綿氏が終盤の貴族を演じたら?と思ったのである。いかにも貴族らしく上品に礼儀正しく振る舞いながら、あっという間に女優と別れ(この経緯はよくわからない)、自暴自棄になって若い娼婦と一夜をともにする。しかし彼は娼婦に対して非常に優しく振る舞い、彼がつぎにどんな女性と出会うのか、というところまで想像させるのである。それは石綿のがんばりだけでなく、貴族を演じた斉藤直樹がみごとに本作を締めくくったことにも起因するであろう。

 PLAY/GROUNDはいわゆる劇団ではなく、ユニットとも異なると思われる。さまざまに労苦があると察するが、今後どのような活動をしていくのか非常に興味深い。年明け早々に希望を与えられるとは、幸運である。2つの舞台、挑戦する俳優さん、スタッフさんに出会えて嬉しい芝居はじめとなった。

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