因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団民藝『コラボレーション-R・シュトラウルとS・ツヴァイク-』

2014-10-08 | 舞台

*ロナルド・ハーウッド作 丹野郁弓翻訳 渾大防一枝演出 公式サイトはこちら 紀伊國屋サザンシアター20日まで 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14
 オペラ『ばらの騎士』などで知られるドイツ国内随一の作曲家シュトラウス(西川明)は、新作オペラの台本を執筆する作家を渇望していた。彼が白羽の矢を立てたのは、人気作家のツヴァイク(吉岡扶敏)だ。
 シュトラウス67歳、ツヴァイク50歳。17歳の年齢差を越えて、新しいオペラのコラボレーション(共同作業)がはじまる。芸術家同士互いの才能を讃えあい、創作意欲を刺激しあいながら遂に新作オペラ『無口な女』が完成するが、ユダヤ系オーストリア人であるツヴァイクには、ナチスの追及が迫っていた。

 今回の舞台は「開帳場」になっており(「八百屋」とのちがいをちゃんと調べよう)、傾いた床には何も置かれていない。開演が告げられると数人のスタッフ(パンフレット記載の演出助手班か?)によって、木製のベンチやテーブルなどが運び込まれ、物語がはじまる。

 作家が上演台本を書き、作曲家が曲をつけてオペラをつくるコラボレーション(共同作業)のプロセスを縦軸に、ナチスが台頭してさまざまなものが迫害、攻撃され、芸術に政治権力が介入する歴史をが横軸になった2時間30分の舞台だ。
 前述のように舞台美術が非常にシンプルなこともあり、登場人物の対話を「聴く」かたちの舞台と言ってよいだろう。登場人物はシュトラウスとその妻パウリーネ、ツヴァイクと、のちに妻となるその秘書(藤田麻衣子)、ナチスの文化院国家行政官のヒンケル(塩田泰久)、オペラハウスの支配人アドルフ(内田潤一郎)の6名だ。ときは1931年7月、シュトラウスの山荘にはじまり、ザルツブルグにあるツヴァイクの邸宅、ドレスデンのホテル、ツヴァイクが亡命したブラジルのペトロポリス、終幕は戦後に行われた非ナチス委員会におけるシュトラウスの述懐と、激動の十数年が淡々と描かれている。

 演劇ならではの濃密な対話がみどころであり、音楽好き、オペラファンにとっても興味深いところが多い作品だ。暗転時に流れる音楽も美しい。会話の内容は互いに火花を散らしたり、子どものようにはしゃいだり、一流の芸術家らしい若干浮世離れしたところもあり、いっぽうでいかにも職人らしい細やかで鋭いところもあり、そのなかに妻パウリーネが持ちこむ「(玄関に入ると気)靴、拭いた?」に代表される日常的で、ややドタバタした空気などが相まって、上演時間があっという間に過ぎてしまった。

 年月は流れ、場所も移るのだが、舞台ぜんたいの雰囲気がずっと変わらない印象があり、何となくぼんやりして見過ごしたり、聴きのがしてしまったとこもあると思われる。何度か観劇すること、戯曲を繰りかえし読むなど、学習が求められる作品だ。戯曲を読みながら舞台の様子を思い浮かべ、今日はシュトラウス、つぎはツヴァイク、ときにはパウリーネなど、ひとりの人物に焦点を合わせてみれば、作品をもっと立体的に味わうことができるだろう。

 本作は2011年に加藤健一事務所が初演しており、未見であることがたいへん悔やまれる。 作品の予習、俳優のちがいによる比較の視点はもちろんだが、前述のように劇の手ざわり、空気がさらりとしているためか、こちらがあまりに受け身の姿勢であっては、作品の本質にまでたどり着けないと思われるのである。
 芸術家どうしの厚い友情だけでなく、ノンポリのシュトラウスがユダヤ人であるがゆえのツヴァイクの苦悩をなかなか実感できないこと、しかしシュトラウスは息子の妻がユダヤ人であることで、芸術を全うするか、家族を守るかの葛藤に苦しむところなど、もっとこちらがしっかりと作品と人物、俳優のすがたに近づかねばとうてい感じとることはできない。
 また妻パウリーネは、どっしりした体格で、ずけずけものを言う女性と単純に括ってしまいかねないし、純情可憐なイメージのロッテに、もしかすると複雑な事情があるのではないかといった読みも必要ではなかろうか。

 実在の人物を題材にした、いわゆる評伝劇であるが、ツヴァイクの前妻の離婚と新しい妻との再婚の時期など、すべて史実に基づいているわけでもないらしい。 作曲家と作家に加えて、ふたりの人生にロナルド・ハーウッドという劇作家が第三のコラボレーションを挑んだ作品といえよう。

 シュトラウスとツヴァイクのやりとり、タイトルの「コラボレーション」、つまり共同作業ということばには、テレビドラマの影響もあろうが、「ああ、このふたりは相棒なのね」というこちらの発想、ひとくくり感覚をやんわり退ける。そこをもっと知りたい、感じとりたい。

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