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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

green flowers vol.13『かっぽれ!春』

2013-03-21 | 舞台

*内藤裕子作・演出 公式サイトはこちら 中野/テアトルBONBON 24日まで(1,2
 昨年秋の『ふきげんなマリアのきげん』で、第24回池袋演劇祭大賞を受賞したグリーンフラワーズ(以下グリフラ)が、一昨年晩秋に落語家一門が、一門会を行う旅館で巻き起こす大騒動を描いた『かっぽれ!』の春版を上演する運びとなった。あの噺家さんたち、旅館のみなさんにまた会えるのだ。先日の桜の開花いらい、あっという間にどんどん咲きはじめるなか、うきうきと中野の劇場に向かう。

 春のころ、落語家の今今亭(こんこんてい)一門の勉強会がいつもの旅館「松野や」で行われることになった。客室を整え、準備をするおかみと従業員の会話から『かっぽれ!春』がはじまる。この若い男性従業員は前回も登場していたはず・・・と不思議に思う前回からの観客にも、いったい彼は何者かと思う初見の観客にも、過去のいきさつを自然に会話に盛り込みながら、引き込んでゆく。彼をめぐって一門の皆とひと悶着ありそうな予感だ。

 前作より確実にパワーアップし、切り口も鋭くなっている。ひとつひとつの台詞が心にくいほど周到に書かれており、入念な稽古を思わせるテンポのよさで、客席には笑いが絶えない。笑いのために台詞が聞き取れないところもいくつかあり、残念なのだがそれでもおかしいのだから笑ってしまう。あー、◎◎さんの台詞が聞こえないよう・・・もどかしく思いながら笑いつづける楽しさ。堪えられない。

 笑いにはいろいろな種類があるが、グリフラのそれには相手をおとしめたり小馬鹿にしたりする嘲笑のたぐいがまったくないのだ。もちろん現実には嘲笑も侮蔑もある。しかし「それでもやっぱり毎日気持ちよく暮したい」と思うのが人情であり、『かっぽれ!春』の人々にしても、日々辛いことや嫌なことは山ほどあるはずだが、そこを辛抱して懸命に落語の修業に励み、家業にいそしむ様子がほんとうに好ましく、劇中の人物でありながら応援したくなるのだ。予定調和のドタバタなどでは決してない。

 今今亭の師匠である父とその娘の落語をめぐる確執が本作の大きな軸である。ふたりはこれからもはた迷惑に懲りない喧嘩と仲直りをくりかえすであろう。ここまでくれば、と言っても2作めだが、へんにものわかりよく歩み寄ったりなどせず、ゆがみながら走る平行線のようにとことん交わらない父と娘であってもいい。いっそそのほうが清々しいのではないか。
 そしてもうひとつの軸は「芸と仕事」である。自分の好きなこと、やりたいと思うことが仕事として成立するかどうか。本作には芸を極めた人、事情によって夢なかばであきらめた人、もがきながら不器用に走りづつける人、走るのをやめようかと常に悩んでいる人など、夢と現実のあいだを右往左往する様相は、笑いながらみていてもときに痛ましい。

 ふたつの軸、どちらも結論があるわけではなく、結論にもってゆくための芝居ではないのだ。
 落語は父と娘を衝突させ、決裂させたものであり、同時にふたりを結びつける役割を果たす。どうやってもそれから離れられない。まさに恐ろしいまでの宿命である。

 実は落語好きだった娘の夫、娘を遠ざけておきながら女の弟子をとった師匠、やや唐突に現れた東助の新しい恋人などなど、物語にあらたな展開をもたらすと予感させる人々について、周到な劇作家にしてはじゅうぶんに描ききっていないのではないか。

 ・・・と書いていたら当日リーフレットの「今後の予定」に、『かっぽれ!3』(仮)とあるではないか。これには大きな期待だけではない、複雑な印象をもった。たった2度みただけなのに、自分はもうすっかり『かっぽれ!』の人々とずっと以前からの知り合いのような親しみをもってしまったのだ。あの人たちはあれからどうなったのか、もっと知りたい、また会いたいという気持ちが強まるいっぽうで、そう思ううちに物語の幕を閉じたほうが粋なのではないかとも思うのである。マンネリに陥る可能性は、つくりてだけではない、みるがわにも起こり得るのである。

 演劇をつくるには、そして継続するにはさまざまな適性や能力、条件が必要である。そのなかで重要なのが「仲間をもつ」ことではなかろうか。突出した力のある人がいたとしても、たったひとりでは演劇はつくれない。内藤とさとうはよい仲間を得た。それを客席からともに喜びたい。やはり次回も楽しみだ。願わくは、次回公演の当日リーフレット掲載の写真には、俳優の皆さんのお顔がもっと美しく写ったものを。

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