因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

グリング第15回公演『Get Back!』

2007-12-12 | 舞台
*青木豪作・演出 公式サイトはこちら 下北沢 ザ・スズナリ 公演は9日で終了
 交わりが与えられたとき、それがずっと続けばいいと願う。しかし至福の蜜月は永遠ではない。自然に消滅することもあれば、意識的にそうするときもいろいろだが、別れのときはいつかやってくる。青木豪の新作のタイトルは『Get Back!』。「戻ろう!」という呼びかけである。何に戻る、どこに戻る?

 漫画原作者のりん(片桐はいり)と作画担当の晴子(萩原利映)は20年来のコンビだが、二人の関係は末期症状にある。関係の修復や新作へのインスピレーションを求めて、りんの従兄弟夫婦(杉山文雄、高橋理恵子/演劇集団円)が経営する民宿に訪れる。作画アシスタントの宇野(中野英雄)も同行しての旅行は妙にぎこちなく、一発触発の緊張感が漂う。

 片桐はいりを今年になって2度みたことになる。夏に上演された本谷有希子の『砂利』では、片桐の持つ特殊性が前面に出ていたが、今回はその点は控えめな印象を受けた。「舞台に出て来ただけで、空気が変る」とは自分もそういう表現をしたことがあるし、片桐を評してよく言われることである。これは長短あって、観客の目を引きつける絶大な効果はあるものの、物語じたいがどこかへ行ってしまうこともある。本作は、片桐はいりをどう見せたいかよりも、彼女が主役ということではなく、そこに出入りする人々がある時間過ごすこと、そこで起こる出来事の数々からたどり着く結末、人々が出した結論を丹念に描いたものである。

 原作者役が片桐でなくても成立したのではないか?という見方もあるだろう。そうかもしれない。彼女を中心に置いて見せ場を多く作り、客席を沸かせる芝居のほうが想像しやすい。しかし敢えてそうしなかった青木豪と、それに応えた片桐の辛抱強さを好ましく思うのである。

 公演が終了したので、物語や演出の詳細を書いても構わないのだが、それに行き着くまでにもう少し考えたい。
『Get Back!』。この呼びかけは誰がどこに向かって発しているのだろう。なぜ「戻ろう」と呼びかけるのか。戻ることができないのに。

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