因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団サーカス劇場X劇団地上3mm『イヌ物語』

2009-07-06 | 舞台
*清末浩平(劇団サーカス劇場)脚本 川口典成(劇団地上3mm)演出 下北沢 シアター711 5日で終了
 いずれも東京大学の学生劇団を母体とする2つのカンパニーが「劇団合体と見据えた合同公演」と銘打ったもの。公演チラシや当日リーフレットに記された清末浩平、川口典成の挨拶文には本公演に賭ける情熱と意気込みが溢れ、ほとんど決意表明の趣きである。演劇とは何か、自宅でテレビやDVDをみることとどう違うのか。戯曲とは何か、演出と俳優の関係とは何か。さまざまなことをもう一度原点にもどって考えようとしていることが伝わってくる。
 とあるマンションのエントランスのごみ置き場が舞台である。冒頭、「イヌのブチがいなくなった」と叫ぶ女子中学生がいる。と、誰かがごみ置き場に立てこもっているらしく、ブチと呼ばれるこの女を演じるのは赤澤ムック。どうみても人間の女なのだが、ブチを文字通りイヌ扱いして部屋に軟禁していた犬養という女(していることと名字が一致している)が出て来て、ブチと諍いを繰り返す。この街にはロックのおじさんと呼ばれる男性がいて、呼びかければやってきて皆の話に耳を傾け、トラブル解決のために世話を焼いてくれる。

 主役は赤澤のブチかと思われたが、途中から犬養が前面に出て来る。居住者それぞれに難しい問題を抱えており、客席から焦点が定めにくい。心を病んだ人々が孤立して暮らす集合住宅、共同体としての機能を失った町、そこにやってくる怪しげな新興宗教の人々の諍いは収拾がつかなくなる。ロックのおじさんだけが頼りだが、彼も危ない事件に関わったせいで、おそらく亡き者にされてしまったのだろう。

 人間をイヌのごとく扱い、それに逃げられると別の人間を今度はネコ扱いして軟禁しようとする犬養、可愛がっているイヌを必死で探していると思いきや、自分のストレスを発散する対象がいないから困るという女子中学生。記憶によるものなので正確ではないが、重いものを抱えた人々に対し、赤澤ムック演じるブチがどういう存在になるのか、赤澤の存在や演技が非常に強烈なだけに、終始違和感や戸惑いに悩み、作り手側の熱意を充分に受け止めきれない観劇となった。若い演劇人たちが自分たちの劇団の枠を越えて活動するフットワークの強く軽快なることには驚くとともに敬意を表したい。今回の試みも次の想像に繋がっていくことを願っている。

 
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