因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

日本のラジオ 6月本公演『ミズウミ』

2017-06-17 | 舞台

*屋代秀樹作・演出 公式サイトはこちら 御徒町/ギャラリーしあん 18日で終了(1,2,3,4,5,6,7,8
 クトゥルフ神話(ピクシブ百科事典)をモチーフとし、劇団肋骨蜜柑同好会の作品に設定されていた「田瓶市」(あの公演のことかな?)を舞台に、昭和時代終焉の64年の正月と、平成30年が行き来する、というより、交じり合い、共鳴しつつ進行する。JR御徒町駅から徒歩10分の古民家「しあん」の建物の構造や雰囲気、俳優の持ち味など、舞台を構成する要素を的確に把握し、活かした作り。いつも楽しみにしているパンフレットは、上演台本と登場人物の(ここが大事なのだ)写真とプロフィール集の2冊構成で、チケットと合わせて2,700円の価格には、作り手の良心が感じられる。

 実は今回の公演にはつまづきや戸惑いの感覚があった。ひとつは大学の文化人類学の助教授という女性の造形である。大学教授とはこういうものだという思い込みやイメージがあるわけではないのだが、変わり者の女性学者、エキセントリックな性質、社会人としての良識という面でちょっとどうかと思われる人物ということなのか、彼女の造形に対して、作り手の意図を計りかねた。彼女の台詞の発し方や動作、ふるまいを受けとめるには、とくに今回の「しあん」のような小さな空間ではエネルギーを要し、ときに疲労を伴うのである。

 さらに、65分とはいえ、台詞のなかだけで実際には登場しない人物を含めた相関図はそうとうに複雑だ。ミステリアスなところ、それが次第に猟奇的に捻じれていく様相など情報量が多く、状況を理解し、把握するのにかなり頭を働かせねばならない。また終演後に主宰から今回の新作が「ヒゲンジツノオウコク」につながっていることをアナウンスされてはじめて「あっ、あの本が、あの四姉妹が」と気づくありさまで、日本のラジオの舞台をもう何本も見ているのだから、そういう目論見があるとあらかじめ想定して観劇に臨む必要があることを改めて認識し直した次第である。

 手ごたえをつかみにくかった反省はあれど、日本のラジオの物語の数々が自分のなかで、自分のペースで連なっていく楽しさを少しずつ味わっている。次回は秋、MITAKA“Next”Selection 18thに参加とのこと。これまでの舞台に出演した俳優が多く顔をそろえる。過去作品とのリンクの可能性を考えつつ、新鮮な気持ちで観劇に臨みたい。

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