因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

2020年因幡屋演劇賞

2020-12-31 | お知らせ
 今年も因幡屋演劇賞のお知らせをお届けできることに感謝します。

Triglav 3rd works マグカルシアター参加・・・1月観劇
 ジョン・スタインベック原作 中西良介翻訳 新井ひかる演出
『ハツカネズミと人間』
 見終わってすぐ、「因幡屋演劇賞に決定」と心のなかで快哉を叫んだ。2020年の最初の観劇にして断トツの1本と断言できる舞台に出会えたとは、何と幸運で幸福であろうか。このあと世界がどう変容するかは全く想像できないままに・・・(因幡屋通信65号劇評「名前のない女」掲載)。

東京夜光  MITAKA “Next” Selection 21st 
 川名幸宏作・演出
 『BLACKOUT~くらやみで歩きまわる人々とその周辺~』・・・8月観劇
 コロナ禍の只中にあって、翻弄される演劇界と、作・演出を希望しながら、演出助手という仕事を続ける青年の屈託。よくぞ、よくこそ上演してくれた。活動自粛中の6月に配信された吉祥寺Rock Joint GB演劇応援プロジェクト『どこかへ』、10月の仙台で開催された「せんだい卸町アートマルシェ2020」での『台風とノラと私』(ネット視聴)いずれも、演劇界の息苦しさや困難をバネにするというより、むしろそこにおける右往左往の様相を素直に見据えているところに惹かれた。私小説ならぬ「私演劇」であろうか。書きたいこと、書かなければならないことは、これからもたくさん出て来ると思われる。困難な状況にあって川名は大いに気を吐いた。

演劇集団円・プラスワン企画 
 内藤裕子作・演出『初萩ノ花』・・・9月観劇
 2014年初演の作品がいっそう瑞々しく、確かな手応えを以て蘇った。初夏の公演が延期され、師走に実現した『光射ス森』(同じく内藤作・演出)も働く現場を丹念に取材し、関わる方々の心象に光を当てた佳品であった。一見日常生活をベタに描いていると見せて、内藤作品は、「その場に居ない人」、「舞台で背中を向けて顔を見せない人」のことを想像させ、寄り添わせるところがあって、回想場面と単純に括れない、舞台でなければできない表現がある。内藤裕子の作品は、そのことに気づかせてくれるのだ。

劇団肋骨蜜柑同好会第14回公演
 フジタタイセイ作・演出『2020』・・・12月観劇
 配信を視聴して矢も楯もたまらず、劇場に駆け込んだ。ある地方で活動している劇団に、雑誌のライターとカメラマンが取材に訪れる。物語は現在の設定でありながら、もう20年以上も前に日本を震撼させた、あのカルト教団のありように酷似している。なぜ演劇をしようとしたのか、何を表現したかったのかがわからなくなってしまった彼らの行く先は?
 
 朝日新聞「論座」に発表された劇作家・演出家瀬戸山美咲の「コロナ禍の中で考える、演劇の現在と未来」には、「演劇はなぜ存在するのか」という問いかけに始まり()、表現の場所を失い、生活の糧までも失った演劇の現場の救済のために奔走するなかで感じたこと、劇場が精神を守る場所であること()では、 自身の作品である『オレステスとピュラデス』から、古代から現代に至っても人間の本質が変わらないこと、その世にあって演劇が上演され続けていることに、演劇の存在理由を見出し、現代能楽集Ⅹ『幸福論』からは、演劇を観るために劇場を訪れた人々が、相手の体温を感じ取りながら思いを分かち合い、孤独が和らげられるところに、演劇の必然を説く。演劇の存在理由、必要性を確信する情熱に裏打ちされた冷静な状況分析と将来への考察は、わかりやすく説得力があり、大いに力づけられた。

 その一方で『2020』の終幕、劇団の権力に屈服した女性が、引き裂かれた恋人に向かって「誰しもが好きな服を着て、口を覆われることなく自分の言葉で話し(中略)、そこらじゅう不要不急の物事で雑然としていて、音楽は溢れ、面白くも無い演劇が上演される」世界であるようにと激白する場面が忘れられない。
 演劇は不要不急であり、万人が必要とするものではない現実と、まして自分たちの作る演劇は…という自意識にもがきながら、それでも演劇を作り続けるという宣言であり、屈折した演劇讃歌と受け止めた。

 出口の見えない状況にあって、揺れ動く心に確かに届く舞台に出会えました。2020年でなければ生まれなったであろう作品や、その魅力に気づけなかった作品もあります。感染者数は増加の一途、すぐ身近に迫っていることを実感します。甘い期待はしません。むしろ今の状況がまだまだ続くと覚悟する必要があるでしょう。そこでどんな演劇が生まれるのか、その印象をより的確に豊かに記すこと。因幡屋通信、因幡屋ぶろぐの目標はこれに尽きます。

 1年間ありがとうございました。創作の現場の方々への限りない憧れと敬意、演劇という宝を与えられた人生への感謝を以て、ご挨拶といたします。来年もどうかよろしくお願いいたします。
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