因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

11月後半観劇の覚書 ウテン結構&燐光群

2020-12-30 | 舞台
 以下2本は11月後半観劇の記録です。覚書にてご容赦を…。
*燐光群公演坂手洋二作・演出『拝啓天皇陛下様』
 公式サイトはこちら 座・高円寺1 11月22日終了 
 小説『拝啓天皇陛下様』は野村芳太郎監督・渥美清主演で映画化もされた棟田博の代表作だが、坂手洋二は棟田と遠縁にあたり、本作の劇化を長く暖めていたという。この小説が大変おもしろい!簡潔で淡々とした文体から現場の空気が伝わり、棟田自身を投影した小説家、軍隊で出会った山田正助、上官や町の人々などが生き生きと動き出す。今回の舞台は、この小説に登場する人々と、森友問題に苦悩する現代の官僚とその周辺を行き来しなが進行する。

 芝居は何が起こるかわからない。初日が明けて数日後、ムネさんとワカギの二役を演じていた(主演と言ってよいだろう)杉山英之が心臓疾患で緊急入院し、作・演出の坂手洋二が「台本を持ってリーディング出演する」と発表された。当日、上演前に坂手が舞台上手の通路のような場所から観客に事情の説明と、「今回はこのような方法で上演します」と説明したのだが、よくわからず。開幕してなるほどと納得した。そうか、こういう方法があったのか。

 ワカギは舞台に不在の人として描かれており、多少混乱するところもあったが、離れた位置からのリーディングが不在の悲しみや人々の怒りが際立つ効果を上げていた。小説の山田正助は天皇陛下に手紙を書こうとして「不敬罪」だと止められる。しかし現代のわたしたちは、総理大臣に手紙を書くこと、意見を言うことができる。ワカギさんは「行方不明」のまま舞台はいったん幕を閉じる。彼がすがたを表すのは、森友問題が解決する時だろうか、それとも?

 緊急事態を乗り越えた座組の健闘に敬意を表するとともに、杉山英之さんが回復されたのちには、ぜひ完全版を観劇したい。

*雨々作・演出 公式サイトはこちら  日暮里d倉庫 29日まで1,2,3
 第4回公演『ヒカリ・アル・トコロ』の中止から約半年。満を持して第5回公演を迎えた。3年間で5回の公演を行い、公演ごとにステージ数を増やすという目標は、昨年秋の大型台風とこのたびのコロナ禍のために完全に成し遂げることは叶わなかったが、いずれも不可抗力であり、その中で大健闘された劇団の歩みに拍手を贈りたい。

 残念ながら、今回の舞台の熱量や勢いを受け止めるには、その熱量ゆえに観客にとっては戸惑いが最後まで消えなかった。休憩を挟まず、長くとも2時間内に収めることは難しかったのだろうか。d-倉庫はステージは奥行きもあり、客席の傾斜もきつめで、舞台全体俯瞰できる。登場人物の出捌けやデッキ風の場所も効果的に使い、劇場の構造をすっかり手の内にしている印象だ。複数の時空間が交錯する劇の作りもおもしろい。だが作り手側が「見せたいこと、言いたいこと」が客席に届くものであるかどうかは賭けのようなところがあり、受け手側も努力はするけれども今回は困難であった。

 気心の知れた出演陣との良きチームワークが感じられる座組であり、メンバーもそれぞれに創作活動を継続されている由、来年から始まるであろう第二期ウテン結構のステージの行方を備えて待ちたい。
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