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緊急事態宣言継続中にあって、文学座では期間限定のオンライン演劇の配信が始まった。ある日曜日の昼下がり、うちに籠って時間を持て余す夫婦の会話劇は、「STAY HOME」の現状にあってタイムリーかもしれず、どんな「演劇的効果」をもたらすのだろうか。
緊急事態宣言継続中にあって、文学座では期間限定のオンライン演劇の配信が始まった。ある日曜日の昼下がり、うちに籠って時間を持て余す夫婦の会話劇は、「STAY HOME」の現状にあってタイムリーかもしれず、どんな「演劇的効果」をもたらすのだろうか。
上演形式は少し変わっており、釆澤靖起✕増岡裕子、亀田佳明✕松岡依都美、瀬戸口郁✕富沢亜古の順に、3組の夫婦が語り継ぐかたちを採る。戯曲に夫婦の年齢設定はされていないが、結婚して1年目らしいことが窺われる台詞があることなど、まだ若い夫婦だと思われる。ただふたりのやりとりは、現代のそれとの比較はあまり意味がないと思われるものの、老成、達観を感じさせ、中高年夫婦の会話としてもさして違和感がない面もあり、演じる俳優の世代を特定せず、それぞれの味わいが生まれる作品なのであろう。
俳優の視点の向け方、顔の角度、画面に対する距離や立ち位置(座り位置というのかな)は、なかなかむずかしそうである。遠すぎず近すぎず、真正面では見る方が辛いときもあり、と言って斜めになると、これがどうもしっくりしない。作品の性質とも関係しており、「最適の位置」については試行錯誤が続きそうである。自分は二番手の亀田佳明が、画面の大きさとのバランスや位置など、もっとも自然で心地よいものであった。
夫婦は中盤から鎌倉への小旅行に出かける。実際に外出するのではなく、想像のなかで汽車に乗り、タクシーを飛ばして海に出かけるのである。まさに「仮想旅行」であり、妄想のなかで二人とも振る舞いが大胆になり、劇世界はエロティックな様相を呈しはじめる。
夫は鎌倉の海で、もっと大胆に妻と触れ合いたい。しかし妻は夫を窘め、ふたりは現実に戻る。想像のなかでひとしきり遊ぶも、そこから戻ったときの切なさや虚しさを語る夫婦の会話がしみじみと聞かせる。夫の「お前といることがだんだんうれしくなくなってきた。でもお前がいなくなった時のことを考えると…」の台詞は、聴くたびに違う味わいがあり、それを受ける「でも久しぶりよ、泣いたのは」という妻の台詞も深い。
文学座の『紙風船』は、3月下旬にアトリエでリーディングを観劇したばかりでもあり、劇場が閉じている今、こうして複数の世代がひとつの作品を語り継ぐ形態によって、本作の自由度、奥行きの深さをいっそう確かに感じ取ることができた。オンラインでの制作にもさまざまな労苦があると察せられるが、この機にあまり上演の機会のない作品を取り上げていただけると嬉しい。「いまだ舞台上にその姿を現したことのない幻の三幕七場」(中村哮夫『久保田万太郎―その戯曲、俳句、小説』より)という、久保田万太郎の『波しぶき』など、いかがでしょうか。
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