因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団D.K HOLLY WOOD『The Joker 』

2011-06-29 | インポート

*越川大介 作・演出 公式サイトはこちら シアターサンモール 7月3日まで
 もと「ちびっこギャング」の越川大介が主宰する劇団で、今回が初見である。自らを「B級小劇団」と称し、目指すは「スタイリッシュ・サスペンス・ミステリー・コメディ」とのこと。
 嵐の夜、山奥の別荘である企業の新社長に就任したばかりの男性が殺され、彼が過去に関わった女たち、複雑な立場にある社員たち、まだ19歳の新妻まですべてが疑わしい。地元県警や警視庁の刑事たちはどうも頼りなく、果たして真犯人は逮捕できるのか。

 作・演出が出演も兼ねる場合、出番が少なめのことが珍しくないが、越川大介は警視庁日暮刑事としてバリバリ出演もこなす。11人の登場人物の配役、造形は、俳優の個性を的確に表現するものであり、俳優も自分の持ち場をきちんと理解して力を尽くしていることがわかる。「3秒に1度襲い来る笑い」というキャッチフレーズは、「個人差あり」とことわってあるがあながち誇張ではなく、台詞のひとこと、動作のひとつにこれでもかというくらい入念に笑いが仕込まれている。自分は山梨県警の小嶋刑事の一挙手一投足にさんざん笑わせていただいた。ほんとうに使えない刑事。よくぞここまで・・・!
 上演は休憩なしの2時間15分くらいであったろうか。客席の反応もよく、企業の協賛によるドリンクのサービスや食事券のプレゼントなど興業的な盛り上げ方も手なれた印象で、初日の手ごたえはじゅうぶん、上々のすべりだしとみた。

 先日ある舞台に対して、「こういうお芝居をやりたいんだったら、どうぞ。私はみないけど」と一撃している短評を読み、「酷いいい回しになって、ほんとに申しわけない」とことわってはあるものの、「そういう言い方はあんまりではないか」と関係者でもないのに頭に血が昇りそうになった。少し時間をおいて読み返してみると、ここまできつい表現に至る批評の視点が理解できた。
 今回の『The Joker 』は、もしかするとある方面から同じような評価をされかねないのではないかと、若干取り越し苦労的な危惧を抱くのである。

 劇団のキャリアは長く、新人、中堅、ベテランも含めて舞台に安定感があり、すでに少なからぬ固定客や熱烈なファンがしっかりと劇団を支えている印象をもった。客層の需要に対して的確な供給がなされていればその舞台は成立するが、数はもちろん、質においても新しい観客を呼び入れようとする場合、前述のような痛烈批判に晒される可能性も覚悟しなければならないだろう。
 演劇に何を求めるかは、作り手受け手ともにそれぞれ違いがあって、何が正しい、どちらが適切と解答の得られるものではない。
 ならばそれぞれ自分の好きなところで、自分の好みに合うものだけを楽しんでいればいいのだろうか。作り手も受けても含めてその人の能力には限りがあり、適性を変えたり向上させるのは、努力ではいかんともしがたい面がある。
 
 自分の好みや能力や適性をわかった上で、少しハードルを高くする、あるいはハードルの種類を変えてみるのも一興である。作り手は少なからず傷つくであろうし、受け手は激しく消耗するかもしれない。そこでやめるか、もう一度挑戦するか。少々重い課題である。

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