因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団7度『アンティゴネ』

2018-06-22 | 舞台

*ソポクレス作 呉茂一翻訳 伊藤全記演出・構成 公式サイトはこちら 東京駒込妙義神社 24日まで1,2,3,4,5,6
 演劇は、上演される場所によって印象が大きく変わる。同じ新宿梁山泊の唐十郎作品であっても、芝居砦満天星では地下の闇に取り込まれるような閉塞感があり、花園神社の紫テントでは、まったく知らない時空間へ放り出されたように爆発的な解放感を味わえる。また唐組紅テントの『吸血姫』をシアターコクーンで上演したなら?逆にこの冬東京芸術劇場シアターイーストで上演された『秘密の花園』をテントに持ってきたとしたら?…これくらいにしておきますが、いずれもほとんど想像ができないだけでなく、おそらく迫力や旨みは消えてしまうと思う。

 古今東西さまざまな作品に挑戦してきた劇団7度は、今回ギリシャ悲劇『アンティゴネ』を取り上げた。およそ2500年前に書かれた物語を上演するのは、「豊島区最古の戦勝の宮」である東京駒込妙義神社だ。それも境内での野外公演ではなく、何と御神体のおわす神殿のなかとは。社務所で受付を済ませると、手水を使って一礼して拝殿に入るよう促される。さまざまな儀式が行われるであろう神殿に、座布団、小さな椅子を並べておよそ客席は30席くらいであろうか。両隣とからだが触れ合うほどぎっしりの盛況だ。女優3人は客席の中央を通って演技スペースに向かい、御神体に深々と一礼して開演である。

 およそ50分の『アンティゴネ』がどのような上演であったか。女優の台詞の言い方、動作、全体の構成、照明や音響のことを具体的に書きながら、自分がそれらについてどう感じたかを考えるのがいつもの劇評の書き方なのだが、今回は同じプロセスを取ることにためらいがある。

 それは7度の舞台が、『アンティゴネ』の戯曲の形式だけでなく、物語そのものを解体し、いつ書かれたどこの国の話であるか、登場人物のキャラクタや背景など、わたしたちが作品に対して持っている既成概念すべて打ち砕くかのようなものだったからである。結果、時代や民族に特化されず、権力によって個人の幸せが踏みにじられること、権力に対して素手で闘うしか術がなく、希望が見出しにくいことは、今世界中で起こっている紛争や戦乱の様相を想起させる舞台成果につながる予感を抱くことができたのである。

 自分が非常に好ましく感じたのは、神殿という特別な空間を会場に選びながら、その場の特殊性や雰囲気に依存していない点である。作り手の意図が十分に反映され、それが観客に受けとめられていたかは、正直なところいまだ途上の印象であったが、この『アンティゴネ』は、11月の板橋ビューネ2018参加作品として、サブテレニアンで再演の予定らしい。どんな舞台になるのか、その日を心して待ちたい。 

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