因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第13回明治大学シェイクスピアプロジェクト 『Midsummer Nightmare』

2016-11-12 | 舞台

*ウィリアム・シェイクスピア、ジョン・フレッチャー原作 学生翻訳チーム・コラプターズ翻訳 プロデューサー・小関優生乃 演出・上岡福音 公式サイトはこちら  明治大学アカデミーコモン3階アカデミーホール 13日まで。

 はじめにお断りしておくと、自分は明治大学の卒業生であり、2年前からご縁があって、母校でささやかに職を得ている。したがって本公演に対しては、いわゆる身びいき、身内褒めの気持ちが多々あることを否定できない。仮にこれが都の西北の公演だったら、さらに自分がまったく明大と無関係であったならどんな印象を抱いたのか、想像できないほどだ。

 2011年の『冬物語』の記事を読み返してみると、今回のぜんたいの印象は非常に近いものである。大学が主催し、大学の連合父母会、校友会、連合駿台会などが後援する。第一線で活躍中のプロスタッフが音響、舞台美術、舞台監督、照明などを指導し、ワークショップ講師陣には、このMSP卒業生も。自分にはどうしてもグリング時代が懐かしいが、劇作家で演出家、明大の兼任講師の青木豪氏が監修、本学演劇学専攻の井上優准教授がコーディネーターと、まさに総力を結集した公演なのである。
 俳優、スタッフ合わせると、関わる学生はゆうに100名を超す。この大所帯を学生が運営し、とりまとめて大きなホールで公演を打つということが、やはり自分にはとてつもなくすごいことに思えるのである。

 今回の公演の大きな特徴は、『夏の夜の夢』に、シェイクスピアが後輩作家のジョン・フレッチャーと晩年に共作した『二人の貴公子』というなじみのない作品を合わせて、ひとつの物語に仕立てた点である。この『二人の貴公子』が非常におもしろく、『夏の夜の夢』はあまりによく知られた作品であるために、どの場面も既視感濃厚で、うっかりすると客席の緊張がゆるみかねないところへ、「知らない物語」が違和感なく、それでいて新鮮な展開を見せ、休憩をはさんで3時間の長丁場を飽きさせることがなかった。

 『夏の夜の夢』は、人間と妖精が繰り広げる恋の取り違えの大騒動を描いたコメディである。対して『二人の貴公子』は戦争による別離や、友情ゆえに恋に苦しみ、命がけで愛を勝ち取らねばならない。命を投げ出しても欲しかった美しい女性を妻にできても、それは親友の死によってもたらされた結婚であるという非情な運命を描く。

 告白すると、2011年以来MSP公演から足が遠のいていたのは、ずばり上演時間が長いためである。今回も2本分ならなおさらと身構えたのだが、前述のようにメリハリの効いた舞台で、杞憂であった。何より、『二人の貴公子』が加わることによって、『夏の夜の夢』が喜びに満ちた幸福な物語でありながら、陰影に富んだものに変容するさまを実感できた。これがいちばんの収穫であった。

 さて大団円の終幕、そしてカーテンコールで、自分は不覚にも涙した。その理由を簡単に言えば、「ほんとうに楽しかった。見た甲斐があった」という安堵であり、客席に身を置く者として、自分には、この舞台に出会う必然があったという手ごたえを得たためであろう。学生たちが精魂込めて作り上げた舞台であり、しかもそれが自分の母校であることは、何かもう素晴らしい贈り物で、喜ばずにはいられないのである。

 来年の同プロジェクトの作品は、『トロイラスとクレシダ』とのこと。今回の公演で、自分のMSPのハードルと期待度は非常に高くなった。そして今日からはじまった新たな思案は、次回公演に明大と関わりのない友人知人を誘うかどうか、である

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