▼【「すずめの戸締り」公開記念】映画「天気の子」時間不足と煩雑さが際立つ残念な出来
*本記事は、2019年7月に執筆した「【ややネタバレ有】映画「天気の子」時間不足と煩雑さが際立つ残念な出来」に
一部加筆・改稿をして再掲したものです。
超特大ヒットとなった「君の名は。」の新海誠監督の最新作は、
川村元気プロデューサーと再度タッグを組んだファンタジー。
天候の調和が狂ってしまった時代を舞台に、ひとりの家出少年と不思議な能力を持った少女との出会いと冒険を描く。
声の出演は醍醐虎汰朗、森七菜、小栗旬、本田翼、倍賞千恵子、平泉成。
神木隆之介、上白石萌音、花澤香菜といった「君の名は。」のメンバーもカメオ出演している。
音楽も引き続きRADWIMPS。
劇場の入りからしても初動は「君の名は。」を超えてくるであろうし
フォーマットもほぼ同じなのでそこそこ受けるとは思うのだが、
100億円単位のヒットに見合う作品かと言われると厳しいような気がする。
冒頭から「バーニラ、バニラバーニラ」の宣伝カーが大写しになったかと思えば
飛び込んだネカフェでは御丁寧にどん兵衛のCMソングが流れ、
マクドナルドで三日連続飯を食い、15歳の家出少年が相談事を投稿するのがSNSではなく
よりにもよってYahoo!掲示板(ソフトバンク)という、「龍が如く」も真っ青の全編タイアップ。
作品への没入度を著しく阻害するタイアップの乱れ打ちに、本編への不安がどんよりと広がる。
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作家性と成績(興収)の両立は一度メガヒットを飛ばした監督ならば誰もが求められることであろうが、
「君の名は。」の頃までは感じられていた川村元気と野田洋二郎(RADWINPS)との
三人四脚のチームワークが本作では崩れてしまい、インディーズの頃の鬱々とした自分語りをする
新海監督の大暴走だけが突出してしまっている。
「君の名は。」と同じ「逢いたい」と強く願う二人の物語でありながら
今作は(天候とは関係ないところで)物語の湿度が高く、
主人公を含む登場人物に共感できる(応援したくなる)部分が少な過ぎる。
と言うか、何もかも説明不足ではないか。
新海監督の作品は「君の名は。」以前から家族(親)の存在が
ぞんざいに扱われることが多いのだが、本作はその傾向が特に顕著なのだ。
主人公が何故家出をしたのか、何故東京を目指して出てきたのかなどについて
曖昧な「息苦しさ」以外に何も語られないし、捜索願を出しているらしき両親が
本気で心配をしているのか、体裁上仕方なく届出を出しただけなのかもわからない。
ヒロインはヒロインで、15歳の少女が保証人も立てずどうやって小学生の弟と
二人で暮らすためのアパートを借りることが出来たのか。
マクドナルドで働くにしても、企業倫理を厳しく問われる時代に
どうやって年齢を詐称したのかなど、不明な点が多過ぎる。
肝心なところを伏せたままなので物語に「さぁ乗れ」と言われても困る。
<以下ネタバレ>
物語は、ひと組のカップルの恋物語に日本古来の言い伝えを絡めた
「君の名は。」とほぼ同じ枠組みで、RADWIMPSが流れることから
「君の名は。」と同時期に起こった別エピソードにも見えるのだが
今回の主人公は『世界を救い、二人でいる』ことではなく
『世界のことはどうでもいい、二人でいたい』を選択していて
協力してくれた人達のこともほったらかしにしているのが気になる。
後半の大きなトラブルが解決した後、あっさりと実家に帰ってしまえるのであれば
そもそも東京に出てくる必要すらなかったのではとしか思えない。
背景の美しさ、雨の表現など映像面は文句のつけようがないクオリティながら
「あははっ」「うん、うん」を本当に字面のまま読む本田翼の破壊力が
ブルドーザーのように物語の流れを塞き止めてしまうのも残念。
主人公を追う警官についても、たかだか16歳の少年に馬乗りになってボコボコに殴ったり
大した説得も試みずいきなり銃を向けたりと、悪役然とし過ぎていて違和感がある。
脚本や演出に対して誰も何も言わなかったのだろうか。
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RADWIMPSの音楽は「蝶々結び」(Aimer)から発展させたようなコンセプトで
ボーカルに女性(三浦透子)を迎えたことで「君の名は。」よりも
曲にバリエーションが出来て確実に前作を上回っている。
それだけに、映画本編がここまでグダグダなのが本当にもったいない。
試写を行わなかったのはまだ制作途中だからだと説明していたが
エンディングの不完全燃焼ぶりを見るに
話題作りではなく本当に時間がなかったのだなと妙に納得してしまった。
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新海誠監督の最新作「すずめの戸締り」はいよいよ今週末より公開。