忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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映画「Fukushima 50」誰に愛でられることがなくても

2020年04月18日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「Fukushima 50」誰に愛でられることがなくても



配信中■Amazonビデオ:Fukushima 50
2024年11月現在、「Fukushima 5」はNetflix、U-NEXT、Huluでも見放題配信中。

門田隆将のベストセラー小説「死の淵を見た男」。
2011年3月11日に発生した東日本大震災で
未曽有の危機に直面した福島第一原発に残り
最悪の事態を防ぐべく奔走した現場スタッフの姿に迫った
同作を佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美ら豪華キャストで映画化。
タイトルの由来は、爆発などの二次被害に見舞われながらも原発内に留まり
必死に作業を続けた50名を、海外メディアが「Fukushima 50」と名付けたことによる。
監督は「沈まぬ太陽」「空母いぶき」の若松節朗。

3月6日に封切られ各方面から大きな反響を集めていた同作だが
新型コロナウィルスの感染拡大を受けて現在ほとんどの劇場が営業を停止しており
2020年4月17日より期間限定で有料配信されることとなった。
2024年現在はすでに有料配信は終了し、Amazonプライムビデオだけでなく
U-NEXT、Netflix、Huluなどでも見放題配信中。

私は幸運にも劇場公開の1ヶ月ほど前に試写で観せていただいたので
過去の紹介記事に若干の加筆・改稿をして再掲する。


発売中■書籍/Kindle:死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発
発売中■書籍/Kindle:ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録

2011年3月11日から、早いもので丸9年が経つ。
あの日、あの瞬間まで、最大震度7の巨大地震が発生することも
10メートルを超える巨大な津波が原発を襲い、
東日本壊滅も覚悟しなければならないほどの緊急事態に陥ることも
誰も予想が出来なかった。
阪神大震災を経験している私ですら、津波に押し流される光景が
目には飛び込んでいても、現実の映像とは俄かに受け止められなかった。

私はこの映画を2月10日に行われた舞台挨拶付きの試写会で観させていただいた。
佐藤浩市と火野正平が来場し、撮影中の想いをそれぞれに語っていた。
この映画の試写を一番早く実施したのは福島で、
9年経ったとはいえ、こんな物を作っていいのか
作品を観ることで嫌な記憶を掘り起こしはしないかと直前まで葛藤していたという。
何しろ開始1分で前置きもなしに巨大地震が発生し、
息つく間もなく津波が全てを押し流しにやってくるだ。
空撮のニュース映像とは比較にならない視点とテレビでは伝わらない爆音で、
体験したことのない揺れと、背丈を大きく超える津波がやってくる様が描かれる。
私ですら、あまりの迫力に座ったまま全身が緊張したほどの臨場感である。
しかし、試写を観終えた観客からは「風化させるのが一番怖い。
こうして映画にしてくれてありがとう」とお礼を言われたと言っていた。

佐藤自身、オファーを受けた際、映画にする題材としてはまだ早いんじゃないか、
プロパガンダに使われるだけなのではないかと出演するか随分迷ったそうだが
自然災害そのものではなく、最前線で命懸けで事態収拾に奮闘した
職員の生き様を中心に描きたいとの監督の言葉に突き動かされて
出演を決めたらしい。

また、

震災は悲劇だけれど、
悲しい記憶を悲しいままで置いていても『負の遺産』でしかない。
この映画を作ることで、未曾有の危機に立ち向かった人たちの記録が
次への備えとして活かされれば、それは『遺産』になる。
日本は今やどこに行っても被災経験地(火野談)であり
負の遺産だけで終わらせないために、この映画を少しでも役に立てて欲しい。

と語っていた。

本作は311当時の福島原発内の様子を再現した実録ドラマである。
大自然の驚異を前にした人間の無力さを描きながら、
それでも僅かな望みを探し、そこに賭けるしかなかった
現場の人々の行動を時系列に沿って描いている。
小康状態になるまでの約1週間、
いつテレビを点けても起きている官房長官の現状報告や
ぽぽぽぽーんのCMを挟みながら、刻々と流される最新映像を
食い入るように見つめてはいたが、
中の人々がこれほど過酷な環境に置かれているとは想像ができていなかった。

本作が実録ドラマとして優れているのは、ヒールもヒーローも存在しないことだ。
311は来るべき事態に備えてきたはずの人間の想定を遥かに上回る脅威であり、
誰しも経験がないのだから、誰しもが右往左往する。
時間のない中で、最善と思われる行動を取るしかない。
事前に検証する余裕などあるはずもなく、結果を吟味するのは全て後回し。
後に「ハタ迷惑なだけだった」「何の意味もない」と批判される行為だったとしても
その時、その立場で、目の前の事態に対して
何が出来るかを考えた上での行動だったのだろうと今ならば理解できる。
佐野史郎が演じる総理大臣も、劇中で見事なほどに裏目裏目の行動をとり
ヒステリックに喚き立てるしかしていなかったが
「日本の1/3が壊滅的な被害を受けるかもしれない」と言われて
冷静な判断を下せる人間がどれだけいるだろうか。
逆これほど無様に描かれた内容で(渋々かどうかは知らないが)公開を
了承したのだから、変な言い方だが感心してしまった。

事故発生からの臨場感・スピード感や
政治を含めた関係者の慌ただしいやり取りは「シン・ゴジラ」に似ている。
ただしこちらは、実際に起こったことの記録である。
その重みが観客にずっしりとのしかかる。

9年経ってもまだ立ち入り禁止区域は存在し
一歩足を踏み入れれば、そこには刻の止まった街が静かに佇んでいる。
桜の映像を撮るために撮影目的での立ち入りを許可された佐藤は
「日本にもゴーストタウンがあるんだ、という衝撃が忘れられない」と、
少しだけ声を震わせながら語った。
街に人が居なくなっても、木々は変わらず静かに季節を見送り続ける。
誰も愛でる人がいなくても、そこに在る限り毎年花をつける桜。
今年は福島だけでなく、全国的に桜を愛でる余裕がなくなってしまった。
来年は、皆が安心して桜を眺められる日本になっていて欲しい。

映画「Fukushima 50」は各種サブスクで配信中。



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