Miraのblog

小説はじめました

イカが食べたい

2024-04-28 20:04:07 | 移転ー思い出音楽

 冬休み、小寺君と西口君が来るという。
 
 まさか、イカが食べたいという理由だけで、西の果てまで・・・
 
 国分寺の居酒屋「笹一」で、つまみで出てきた「イカ刺し」や「イカ納豆」を私が食べないのに気付いた小寺君が「イカ、嫌いなの」、「田舎で食い飽きてるから・・・」と答えた小生に、「飽きるほどイカ食ってみたい」と食いついた。
 
 ほとんどの友達が夏休みに小生の実家に来て遊んだ。
 都会にはない綺麗な海がそこにはあった。みんな西海国立公園の海を満喫した。
 
 「夏場も食えるけど、冬の方がうまいよ、寒ブリもあるしね・・・」とうっかり本当のことを言ったので、こよなくイカが好きな2人が、冬休みに来ることになったのである。
 
西口君が佐世保港からフェリーに乗る前に電話をくれた。
 
 小生の実家はフェリーの港にほど近い高台にある。
 
北風吹きすさぶ冬の有川湾に「ボーー」っと警笛が鳴り、フェリーが入って来るのを実家の窓越しに確認してから、ゆっくり家を出ればフェリーの到着に十分間に合う。
吉祥寺の近鉄デパートで買った赤いジャンバーを着て、ポケットに手を突っ込んでも寒く、ふるえながら港に向かった。
寒いはずだ。みぞれまじりの雪がちらついていた。
 
東シナ海に浮かぶ五島列島は、対馬海峡をはさんで玄界灘に接しており、北九州と同様に冬は寒い。
 
 フェリーが着岸するまでの、5分くらいの間、マフラーしてこなかったことを後悔していた。
定刻の午後4時20分、九州商船のモミジ丸は到着した。
 
「寒いなー。早く出てきてくれ」と思いながら、タラップが渡された船の出口を覗く。
フェリーの2階デッキから何か声が聞えるので、ふと見上げた。
デッキには、まさに本日のゲストである、小寺君と西口君が手を振っていた。
 
目を疑った。
「半そで」だった。
夏の装いだった。
特に、小寺君はTシャツと短パンだった。
なにか怒鳴っている・・・北風吹きすさぶ桟橋に聞えてきた。
 
「なんだよ!寒いじゃないか(怒)」
 
雪が、冷たい北風に舞っていた。
 
とりあえず赤いジャンパーを小寺君に着せて、実家への上り坂を3人は走った。
 
西口君は東京では上着を着ていたが、小寺君は東京から夏の格好で長崎、佐世保行きの「寝台特急さくら」に乗ったという。
 
「五島列島って言えば、沖縄だろう」と小寺君は断定。
 
「勘違いだったとしても、佐世保も寒かったろうから、そこで気付くだろう」と小生。
「佐世保で、待ち時間が2時間あっただろう」
佐世保では商店街にある大阪屋ラーメンを食べるように指定していたので、ジャンバーくらい買えただろう。と、小生は言った。
 
たしかに西口君の方は、どうもおかしいと思ったようだが、「フェリーが着けば、そこは南の国」という小寺君の主張(思い込み)を信じたらしい。
 
 実家のコタツで暖まったころ、小生は中学生の時の地図帳を出してきて、日本地図で説明した。
五島列島は沖縄の700Kmはるか北に位置していること。
冬場は日本海側の寒流が届くので、九州北部は下手すると東京より寒いこと。
九州の南北の距離は、およそ400Kmあるので、北九州と鹿児島ではかなり気候が違うこと。
等々
 
西口君は納得したが、小寺君は「そんなこと言っても、五島列島は沖縄のイメージだろう」と最後までこぼした。
 なにしろ、彼らは海パンと水中めがねを持参していた。
 
イカは美味かった。
 
おいしいイカを食べたい友達が、わざわざ東京から来るというので、親父が知り合いから「ミズイカ」を譲ってもらっていた。ミズイカは単独で泳ぐので、原則的に一本釣りだ。田舎でも高級魚で高い。
 漁師のイカ釣り舟は、2番イカ(するめいか)もしくは、真イカを大量に釣る。
 
小寺君と西口君には嫌って言うほど、イカそうめんを食わせるのが今回の目的だったが、今日は田舎でもめったに食えないミズイカだ。
 「こんな美味いもの毎日食ってるのか?」と小寺君と西口君は大いに満足した。
 
 夕食後、高台の家の窓から海の方向を見る。 
 ここは西海国立公園の真っ只中だ。
 
 イカも確かに美味しかったが、彼らには、この景色こそ最大のご馳走だったのかもしれない。
空には、いつの間にか「満天の星」そして海にはイカ釣り魚船団の「いさり火」が広がっていた。
きらきらと輝く光が冬の空と海を埋め尽くしていた。
 
おしまい



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