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日銀の高田創審議委員が19日に仙台市で講演したが、次の利上げが早期に実施されることを確信させる発言がなかったとして、ドル/円は一時、151円台から152円台へとドル高・円安方向にシフトした。だが、その解釈は「表層的」に過ぎるのではないか。
筆者が注目したのは「物価上振れリスク」という表現だ。物価の安定が最重要な使命である中央銀行にとって、物価に上振れのリスクがあると認識して、そのまま長期間放置するということはないだろう。すなわち、政策委員会の多数が「物価に上振れ」との認識に傾いたときは、利上げへの本格的な議論が始まるというのが合理的なアプローチだ。この日の講演で次の利上げ時期やターミナルレート(利上げの最終到達点)に直接的な言及がなかったとはいえ、足元の市場が想定している7月利上げよりも前倒しの可能性が相応にあると指摘したい。
<米経済に強気、円安と大幅なベアなら物価上振れに「留意」と指摘>
今回の高田審議委員の講演で目立ったのは、米経済の先行きに対する「強気」の見方だ。高田氏は「ソフトランディングよりむしろ早期の再加速――言わば「タッチ・アンド・ゴー」――の可能性が高まっていると捉えている」と指摘。2025年も高めの成長率が見込まれる中で「米国の雇用や物価動向が一段と上振れる可能性やその国際金融市場への影響も念頭に置く必要がある」との見解を示した。
その前提に立って高田氏は「米国経済の上振れを念頭に置くと、それに伴う米国金利上昇・為替円安進展といった市場変動を背景に、今年の大幅なベアの実現も加わって物価が上振れるリスクに留意する必要がある」との見通しを示した。
<円安で物価上振れリスクが顕在化なら、利上げ前倒しの可能性も>
さらに「米国経済が再び回復に向かう確度の高まりによって為替を中心とする市場変動を背景に、物価が上振れる可能性もある」「既に前向きな企業行動が生じてきたという点で、2%の「物価安定の目標」に近づいている」と指摘しつつ「過度な緩和継続期待が醸成され、物価上振れリスクや金融の過熱リスクが顕在化しないよう、1月に実施した追加利上げ以降も、ギアシフトを段階的に行っていくという視点も重要だ」と述べた。
つまり、為替を中心とする市場変動=円安の進展によって物価が上振れる可能性に言及しつつ、そのリスクが顕在化しないよう段階的な利上げをする必要があると主張していることになる。
ここで注目が必要なのは、物価上振れのリスクが顕在化しそうなら、利上げの時期が前倒しされる可能性があるのかどうかだ。高田氏はその点に言及していないが、物価上振れリスクが顕在化しそうなら中銀の責務として利上げの検討に着手することになると筆者は考える。
<米経済堅調、日銀の政策自由度が増大>
19日午前の市場で、「物価上振れリスク」に反応した値動きは影を潜めていたが、高田審議委員は「1月にかけて米国経済の堅調さが改めて確認され、日米の金融政策スタンスの違いも縮小したといえる」「市場の大きな変動リスクが後退した、すなわち、日本銀行の政策の自由度が増したと捉えている」とも述べている。
マーケットは、速報ニュースのヘッドラインだけに一喜一憂せず、高田氏の講演の基底にある見方と、今後の政策展開を丹念に分析する必要があると考える。
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