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ドル高・円安を起点にした輸入物価の上昇が、日本の消費者物価指数(CPI)全体や期待物価上昇率を押し上げるというシナリオの現実味が高まってきた可能性がある。強かった1月米CPIの結果を受けて米利下げの期待感が後退し、ドル/円は154円台に上昇。12日発表された1月企業物価指数は予想を上回ったが、円ベースでの輸入物価も2カ月連続で前年比プラスとなり、円安による物価上昇圧力の高まりが再び顕在化する兆しをみせている。
足元では、コメ価格の高騰で消費者の物価上昇に対するセンチメントを強めており、14日に政府が発表する備蓄米の放出案が十分な効果を出さない場合、日本国内インフレ心理が一段と刺激される展開も予想される。こうした中での円安進展と輸入物価の上昇は日銀の利上げ検討を早める可能性があり、13日に長期金利(10年最長期国債利回り)が14年10カ月ぶりに一時、1.370%まで上昇したのも、市場の一部で浮上している日銀の早期利上げへの警戒感の表れとみることができる。
<3.0%上昇の米CPI、FRB議長は当面の政策維持を示唆>
12日の当欄で指摘したように、円安の進展具合が速まるようなら、物価の上振れリスクの拡大を抑止するために日銀が利上げの検討を前倒しする可能性があると筆者は考える。
12日のNY市場では、早速、円安のテンポが速まるような米指標の発表と当局者の発言があった。米労働省が12日発表した1月の米CPIは前年比プラス3.0%、前月比プラス0.5%と2023年8月以来、約1年半ぶりの大幅な伸びを記録した。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、12日の米下院金融委で「当面は景気抑制的な政策を維持したい」と述べたことを受け、ドル/円は154円前半に上昇。13日の東京市場でもほぼ同じ水準で推移している。
<足元で円安が輸入物価押し上げ、昨年7月の利上げ時にも上昇していた「過去」>
円安の進展は、輸入物価の上昇を招き、輸入原材料への依存度が高い食料品価格の値上げを促す構造になっている。例えば1月企業物価指数のうち、輸入物価指数は契約通貨ベースが前年比マイナス2.2%だったのに対し、円ベースでは前年比プラス2.3%となった。この2つの数字の差が、円安による輸入物価の押し上げ効果と言っていいだろう。
輸入物価の上昇は、一定のタイムラグを伴ってCPIに波及する。帝国データバンクによると、今年1-4月に値上げされる食料品は1万品目を超えるが、足元の輸入物価の上昇はこの先の食料品をはじめとするCPIの上昇幅をかさ上げする要因となる。
日銀の植田和男総裁は12日の衆院財務金融委で、食料品の値上がりが一時的ではない可能性について言及した上で「人々のマインドや期待物価上昇率などに影響を与えるリスクはゼロではない」と述べた。
この植田総裁の発言と直近の輸入物価の上昇は、日銀の利上げ戦略を予見する上で重要だと指摘したい。昨年5月から7月の輸入物価指数は、前年比プラス7.1%、同9.6%、同10.1%と推移。日銀は7月の決定会合で利上げを決めた。その際の金融市場調節方針の変更という文書の中に「輸入物価は再び上昇に転じており、先行き、物価が上振れするリスクには注意する必要がある」との文言が盛り込まれていた。
<物価押し上げ要因のコメ、備蓄米放出でも価格低下は限定的との声も>
足元では、輸入物価上昇のリスク拡大とともに、日本人の「主食」と位置づけられているコメ価格の上昇がCPIを押し上げ、1月企業物価指数の上昇要因にもなっている。1月は前年比プラス4.2%と昨年12月の同3.9%から伸び率が拡大。市場予想の同4.0%も上回った。
上昇が最も目立ったのは同36.2%だった農林水産物で、コメが主因とみられている。政府はコメ価格の高騰を抑制するため、14日に政府備蓄米の放出の具体的な手法について公表する予定。放出規模によってはコメ価格が急落するおそれもあり、コメ流通業者らは政府が価格の乱高下を避けるため、大規模な放出は避けるのではないか、と予想している。
その結果、放出後も価格が目立って下がらず、CPIの目立った押し下げには効果がないという予想も一部の専門家から出ている。今回の放出が将来の買い戻しを条件にしていることも、そうした見方を助長しているとの指摘もある。
<日銀の利上げ前倒し警戒、国内銀が長期ゾーンの国債売り>
もし、コメ価格の低下が小幅であれば、消費者が実感としてみているCPIの総合は高水準で推移し、足元で起きている円安が時間差で影響力を発揮し、CPIが上振れするリスクが高まる可能性もある。
また、3月12日の春闘集中回答日で前年並みの5%台の賃上げを経営側が示すことになれば、日銀が重視している2025年の賃上げが予想通りに推移し、円安伸展の分だけ、物価が想定よりも上振れることになるとの判断に傾けば、市場が今のところ想定している「半年に1回の利上げ」のペースが大幅に速まる可能性も出てくる。
実際、13日の市場で長期金利が一時、1.370%まで上昇したのも、市場の中で日銀の利上げ前倒しという思惑が蓄積された結果と言えるかもしれない。
複数の市場関係者によると、日銀の次の利上げ時期の前倒しや、ターミナルレート(利上げの最終到達点)の引き上げが現実化するなら、金利リスク量の圧縮が必要になると複数の国内銀行が判断。12日あたりから長期ゾーンの円債を売却し、短期ゾーンを買うオペレーションを行っていたという。
円安進行による日銀の利上げ判断への影響がどのように出てくるのか──。そろそろ、多くの市場参加者にとっても「気になる問題」となってきたのではないか。
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