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6日に発表される11月米雇用統計の結果は、従来になく注目度が高まっている。市場予想を大幅に上回るデータが出た場合、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ予想が大幅に後退し、最高値圏で推移する米株が大幅下落するリスクもあるからだ。
一方、予想通りかやや弱い結果のケースでは、米株は堅調に推移するものの、政治的な機能不全を示している韓国やフランスの存在を材料にマネーが米国債に流入する傾向が強まっており、仮に韓国の尹錫悦大統領の弾劾訴追案が7日に可決されるなら、9日のマーケットはウォン急落の可能性が高まり、円高が進む展開も予想される。週明けのマーケットは複数の変動要因を織り込む複雑な展開になりそうだ。
<非農業部門雇用者増加数、市場予想は22万人>
市場における11月米雇用統計・非農業部門雇用者増加数の予想は22万人と、10月の実績値である1.2万人から大幅に増加している。10月の実績値を押し下げたボーイングのストが終結し、ハリケーンの影響もなくなっただけでなく、米大統領選を前に手控えられていた企業の採用活動が再開されたことが主な要因として意識されている。
また、米アトランタ地区連銀が試算している今年第4四半期の国内総生産(GDP NOW)はプラス3.3%と高く、市場の一部では22万人と大幅に上がった市場予想をさらに上回る可能性を指摘する声も出ている。
<30万人なら12月利下げに黄信号>
複数の市場関係者は、市場予想比で小幅の上振れなら「強いデータ」は織り込まれているので、市場をかく乱する要因にはならないと楽観的な見通しを示している。
ただ、米雇用統計はもともと振れやすい性質を持っており、30万人前後まで大幅に増加した場合は12月利上げの市場織り込みが後退し、市場の価格変動が大きくなる可能性が高まる。
12月利下げに関し、市場は19ベーシスポイント(bp)と76%まで織り込んでいるが、これが50%を割り込むような大幅な低下になることも予想される。
市場は来年1月までの利下げを100%織り込んでいるが、もし、12月の利下げが見送られた場合、1月利下げに関する市場の「確信」も動揺し、マーケットには激震が走るリスクがあると予想する参加者もいる。
したがって大幅に強い結果になった場合は、最高値圏で推移する米株が売り込まれ、その動きは週明け9日の日本株にも波及する公算が大きくなるだろう。
<米国債に資金流入の動き、始まった質への逃避>
一方、予想通りか予想比で小幅なマイナスのケースでは、12月利下げへの市場の確信が強まり、米株にとってはプラス材料になる。日本株にも追い風と言っていいだろう。
この時に注目するべきは、米国債の値動きだ。実は、5日のNY市場の値動きを見ていると、その段階から質への逃避とみられる動きがあり、10年米国債利回り(長期金利)は0.6bp低下の4.176%となった。
根底にはフランスでの内閣不信任案の可決や、韓国の尹大統領に対する弾劾訴追案の提出など主要な国の政治機能の停滞に対する懸念が市場で台頭しつつあると筆者は指摘したい。
<弾劾訴追案可決なら、長期間の政治空白に>
弾劾訴追案は7日の国会で採決される予定だが、韓国与党「国民の力」の韓東勲代表は6日、緊急の党幹部会議で「国と国民を守るため、尹錫悦大統領の早急な職務執行停止が必要だと判断した」と表明。弾劾訴追案に賛成する意向を示した、と韓国メディアは伝えた。
弾劾訴追案が可決されれば、尹大統領の職務は停止され、首相が職務を暫定的に代行。憲法裁判所が国会の提出した証拠に基づいて、大統領を罷免するかどうか審理し、180日以内に結論を出す。罷免が決定すれば、60日以内に大統領選が実施され、新大統領が選出される。
したがって弾劾訴追案が可決されれば、長期間の政治空白が生じ、重要な政治的な決断は先送りされる。週明け9日の市場で、韓国ウォンが急落するリスクが強く意識されるのは、上記で指摘した政治空白が韓国経済に大きな打撃を与えるだけでなく、北朝鮮との間の地政学的リスクが高まることへの懸念が高まるためだ。
<9日の東京市場、弾劾訴追案可決ならウォン急落が焦点に>
米雇用統計のデータが12月米利下げを肯定する結果になったとしても、韓国の政治的危機が株式や通貨の下落圧力として顕在化するなら、9日の東京市場も大きな影響を受けるだろう。韓国ウォンの急落があれば、短期的には円高方向に傾く可能性があり、それが日本株の下落要因として意識されるのではないか。
もし、大幅に強い米雇用統計と韓国大統領の弾劾訴追案の可決が重なれば、マーケットはさらに複雑な動きを示すだろう。
その意味で7日の韓国における弾劾訴追案の採決は、マーケットが休場の東京市場参加者にとっても見逃せないイベントになったと言えるだろう。
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