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ワシントンで7日に開催された日米首脳会談は「大成功」との評価が広がり、マーケットには安心感が広がったようだが、その判断は軽率かもしれない。トランプ米大統領は10日にも全ての鉄鋼、アルミニウムの輸入品に25%の関税をかけることを公表すると述べており、年間で3026億円に達する日本から米国への鉄鋼輸出も対象になる。米国で生産する日系自動車メーカーは日本から輸出された薄板を利用しているケースが少なくなく、日系工場で製造される自動車のコスト上昇と価格競争力に打撃となる。
また、内外のメディアはほとんど注目していなかったが、石破茂首相は7日のトランプ大統領との共同会見で「第1次トランプ政権時と同様に、専門家である日米の財務大臣の間で緊密な議論を継続させていくことにした」と表明。その後、石破首相はベッセント米財務長官と会談した。
一部の市場関係者はトランプ大統領が為替問題に言及しなかったことで「円高圧力はかわせた」とみているようだが、日米財務相間の緊密な議論継続が何を意味するのか、注意深いフォローが必要だ。市場の一部では、円高方向への圧力の一環として米側が日銀の利上げを支持しいているとの思惑も浮上してきており、日米政府や中銀関係者の発言から目が離せない状況が続きそうだ。
<鉄鋼対米輸出は3026億円、関税は日系自動車メーカーに負担>
10日の東京市場では、日米首脳会談でトランプ大統領から「無理難題」を突き付けられることがなく、平穏無事に終了したことを好感する声が多かった。日経平均株価は前週末比14円15銭(0.04%)高の3万8801円17銭で終えた。ドル/円も大きな値動きを見せていない。
だが、全ての鉄鋼、アルミニウム製品の輸入に対する25%の関税賦課は、日本経済にとっても大きな負担になる。
2024年の対米出額のうち、鉄鋼の輸出は3026億円と全体の1.4%を占める。対米輸出の特徴は、米国内で生産する日系自動車メーカー向けの製品が多いことだ。自動車メーカーのニーズに合わせた特殊な鋼材の割合が多くなっているという。
ここにも25%の関税がかかることになり、日系自動車メーカーのコストはその分だけ上昇し、合理化だけでは吸収できず、利益率を圧縮するか、価格を引き上げるなどの対応を迫られることになる。いずれにしても日系自動車メーカーの収益構造を悪化させる要因になる。
この日の東京市場では、こうした点の織り込みが進んでいたとは見えず、10日に関税賦課が正式に発表された後の12日の市場で織り込みが本格化すると予想する。
<685億ドルの対日貿易赤字、1000億ドルと発言したトランプ大統領の真意>
また、共同会見などでトランプ大統領が、米国の対日貿易赤字を1000億ドルと述べたことに対する内外メディアの詳しい分析は今のところ出ていない。24年の対日貿易赤字は685億ドルだが、トランプ大統領が記憶違いをしていたという可能性は低いだろう。
筆者は、日系自動車メーカーがメキシコとカナダで生産し、米国に出荷している輸出分もカウントして1000億ドルと述べた可能性が高いと予想している。
トランプ大統領は、対日貿易収支の均衡が望ましいと述べるとともに、日本からの自動車輸入に対する関税賦課の可能性も否定していない。
したがって将来的に関税が賦課されるか、為替がドル安・円高方向に是正されるかの二者択一の選択を迫れる局面が到来する可能性は相応にあると筆者は予測する。
<石破首相がベッセント財務長官と会談>
その意味で石破首相が日米財務相間における為替問題の緊密な議論の継続に言及したことは、決して軽視されるべき問題ではないと考える。
今回の「1泊3日」という超弾丸日程の中で、ベッセント財務長官と石破首相の会談が行われたことも米側の為替問題に対する注目度の高さをうかがわせる点だと指摘したい。ちなみに日本の外務省のホームページには「経済分野における日米協力や同長官の日本とのつながり等について、なごやかな雰囲気の中で有意義な意見交換を行った」と明記され、さらに石破首相から「為替については、第1次トランプ政権時と同様に、専門家である加藤財務相と長官との間で、緊密な連携を継続いただきたい」という発言があったとされた。
<市場の一部に「米政権が日銀利上げを支持」の思惑>
一部の市場関係者の間では、上記の石破首相とベッセント財務長官との会談や、ベッセント財務長官が植田和男・日銀総裁と5日にオンライン会談を行ったことなどに着目し、米側がドル高・円安の相場をドル安・円高にシフトさせることや、その「援護射撃」として日銀の利上げを支持するという思惑があるのではないか、との見方が浮上しているという。
10日の東京市場で10年債長期国債利回り(長期金利)が一時、1.320%と13年10カ月ぶりの高水準を付けた背景にも、こうした日銀利上げに対する「追い風」の環境があるとの見方があったと一部の市場参加者は指摘していた。
トランプ関税の日本経済や企業に対する影響と、貿易不均衡を解消するための円高是正や日銀利上げを支持する意図が米政策当局に本当にあるのかどうか──。日米間の政策担当者の発言から、その真意をくみ取る作業が求められそうだ。
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