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日銀の植田和男総裁は24日の会見で、市場が注目している今後の利上げに関して、経済・物価情勢が日銀の見通し通りに推移していけば、実質金利が大幅なマイナスであるために今後も緩和度合いを調整していくというこれまでの方針をあらためて強調した。ハト派的な利上げでも市場が反応するようなタカ派的なスタンスでもなく「安全運転」に徹したと言える。ドル/円は会見中や終了後も155円前半で推移し、その意味でも日銀は無難にイベントを乗り切った。
ただ、日銀がマーケットの多くが想定している半年に1回の利上げを本当に想定していると決めつけるのは早計だろう。物価や経済情勢によっては、市場の想定よりも早めの利上げが検討される可能性もあると予想する。
<基調的な物価上昇率、緩やかな上昇の範囲>
この日の会見で注目されたのは、展望リポートで示された2024年度と25年度の物価見通しが上方修正されたことに関連し「ビハインド・ザ・カーブに陥っているのではないか」と質問された際の植田総裁の発言内容だった。
消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の政策委員会メンバーの中央値は24年度が2.5%から2.7%、25年度が1.9%から2.5%に上方修正された。特に25年度は0.5%ポイントと大きな修正幅になったが、植田総裁は上昇の主な要因がコストプッシュであるため、25年度後半には物価上昇のテンポが落ち着くと指摘。その上で「基調的な物価上昇率は緩やかな上昇という範囲にとどまっている」と説明した。つまり、ここから急激な利上げ局面が始まるわけではないと明確に述べたということだ。
同時に今後の利上げのペースやタイミングについては「予断を持っていない」と述べて、今後の経済・物価情勢次第であり、会合ごとに判断していくとのスタンスを変えなかった。
マーケットはドル売り・円買いやドル買い・円売りのきっかけになりそうな発言を探し出そうとしていたとみられるが、そうした「鵜の目鷹の目」の網をかいくぐって植田総裁は無事にイベントを通過したと言っていいだろう。
<賃上げに強気、ノルムの変化に言及>
もう1つ特徴的だったのは、賃金に対して強気の見方を繰り返した点だ。物価見通しを上方修正したことで実質賃金のマイナスが継続的に発生し、消費への下押し効果が顕在化するリスクについて質問された植田総裁は、消費が伸び悩む点について「常に意識している」と述べた後で、11月の実質賃金が確報値の段階でマイナス0.3%からプラス0.5%に上方修正されたことに言及。25年度の物価見通しに関し「コストプッシュ型なので後半にかけて低下していく。そこそこの賃金上昇が続けば、実質賃金はプラスになると予想している」と語った。
また、日銀のヒアリングによると、中期的に物価が上がることを自社の中期計画に取り込みつつ、今年の賃上げを決めていくという企業の言及が「少し増えていると感じたところで、これこそがある種のノルムの変化だ」と表明。それが基調的な物価上昇率が大幅に上がったり、2%に収束するような動きにつながる可能性を高めるとの見解を示した。
<中立金利には「相応の距離」>
市場が注目するターミナルレートに関しても、具体的な言及は避けつつ、名目の中立金利水準が1-2.5%の幅の中にある可能性を示しながら0.5%に政策金利を引き上げても中立金利までの距離は「相応にある」と語り、利上げの天井に接近したのではないかという一部の市場関係者の見方をけん制した。
このように見ると、植田総裁は記者からの質問に言質を与えずに今後の利上げのタイミングやペースについて「フルーハンド」を確保したと感じる。
<オントラックなら毎回の会合で利上げ判断、というロジックの意味>
今回の会見を詳細にみると、利上げできない条件や環境については全く言及していない。経済・物価情勢が見通しに沿って進めば(オントラックなら)、毎回の決定会合で判断して利上げできる、という論理構成に形式上はなっている。
マーケットでは、次の利上げは6カ月後かそれより先という見方が多く、市場の織り込み度合いもそのようになっているが、物価情勢が想定を超えて強くなった場合や物価を押し上げる要因が先行き鮮明になると判断した場合は、3カ月後という可能性もゼロではない、と指摘したい。
次の利上げに向けた市場との対話は、24日の植田総裁の会見からスタートしたのではないか。
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