日米外相会談が21日午後(日本時間22日午前)にワシントンの米国務省で行われ、日米同盟を新たな高みに引き上げることなどで一致した。トランプ米大統領と日本の石破茂首相との日米首脳会談に向けた地ならしの意味合いが強いとみられるが、公式発表ではトランプ政権が日本に何を求めているのか、具体的な「対日要求リスト」は明らかにならなかった。そこで、すでに公表されている情報などからトランプ政権の対日要求の中身を予想してみたい。
<トランプ2.0で初の日米外相会談、同盟を新たな高みに引き上げることで一致>
トランプ政権の発足後、日米間の閣僚会談は、この日のルビオ米国務長官と日本の岩屋毅外相との会談が初めてとなる。
日本の外務省の公式発表によると、1)冒頭、岩屋外相からルビオ国務長官に対して長官就任の祝意が表明され、両外相は、今後も日米同盟を新たな高みに引き上げるとともに「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米で協力していくことで一致 2)日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化に向けた協力を進めていくことで一致 3)経済分野についても意見交換を行い、日本企業による対米投資及び経済安全保障を含む日米経済関係の重要性を確認 4)日米豪印、日米韓、日米比といった同志国連携をさらに強化していくことの重要性で一致 5)核・ミサイル問題を含む北朝鮮情勢や中国をめぐる諸課題について意見交換 6)かつてなく強固になった日米関係を維持・強化すべく、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した──ということになっている。
<ベッセント氏が明らかにしたトランプ関税の3つの目的>
2月上中旬とみられる日米首脳会談において、トランプ大統領が上記の各項目を再確認するだけでなく、石破首相に対して何を求めてくるのか、いわゆる「対日要求リスト」が存在するはずだが、今のところ明らかになっておらず、内外のメディアも報道していない。
日本経済と日本企業にとって、トランプ関税の破壊力は相当に大きいと予想されるが、トランプ政権の出方が不明であるため、具体的な対策の打ちようがないというのが石破政権の本音ではないか、と推測する。
トランプ関税の目的については、トランプ大統領から財務長官に指名されたベッセント氏の16日の発言が注目される。米上院財政委員会でベッセント氏はトランプ関税について、1)貿易不均衡を是正するための国・業界別の関税、2)歳入増のための広範な関税、3)交渉のための関税――の3種類があると説明した。
<日米貿易赤字の圧縮目指すなら、日本の自動車輸出が標的か>
もし、1)の貿易不均衡の是正に力点を置くなら、日本からの自動車と同部品の輸出がやり玉に挙がる可能性がある。米商務省の統計によると、2023年に米国が日本から輸入した総額は1472億ドル。そのうち自動車・同部品が495億ドルと全体の33%超を占める。
20日の当欄で指摘したように、日米間には2018年に締結された「日米貿易物品協定」(TAG)が存在し、TAGが米国による新たな関税の適用の「防波堤」になると日本政府は解釈している。
ただ、日米間の貿易不均衡の是正を最優先課題にするとトランプ氏が考えれば、TAGが破棄されて米側が米通商拡大法232 条に基づく追加関税などの対応を実施する可能性は残る。
<ありうる防衛費引き上げ要求と関税引き上げのクロス>
一方、2)の歳入増のための広範な関税については、世界からの輸入品に一律で関税を課すことが想定されているが、トランプ氏は20日の段階で「まだ、準備ができていない」と述べており、2月の日米首脳会談で一律の関税を日本にも課すという要求が出てくる可能性は低いと予想する。
だが、3)の交渉のための関税に関しては、いくつかのシナリオが想定できる。1つは防衛費の増額と関税引き上げをクロスさせる可能性だ。トランプ氏は今月8日、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に対し、各国の国内総生産(GDP)に占める国防費の割合を従来の目標の2%から5%に引き上げるべきだと述べており、日本にもこの要求を突き付け、受け入れなければ自動車などの関税を引き上げるという主張を行う可能性があると筆者は考える。
<自動車の追加対米投資や農産品の輸入増を求める可能性>
また、メキシコ国内にある日系4社の自動車メーカーからは米国向けに約77万台(2023年)が輸出されているが、この工場を米国内に移転させることを目的に、自動車と同部品の関税引き上げをディールのために駆使するということも想定できる。
さらに米国から日本への食肉と穀物の輸出額が2023年に前年比で減少していることに注目し、これらの1次産品の大幅な輸出増(日本から見れば対米輸入増)を求め、受け入れなければ関税を引き上げるという応急を突き付ける可能性もある。
2023年の食肉の対日輸出額は前年比マイナス13.5%の31億ドル、穀物は同マイナス24.4%の32億ドルとなっている。食肉と穀物の主な生産地は米国の中西部で、共和党が優勢な州が多いため、2年後の米中間選挙をにらんで食肉と穀物の輸出増を求め、拒否なら関税引き上げという展開もありそうだ。
<米国の要求受け入れで、多額の国内補助金支出の道も>
ただ、日本の対米直接投資残高は2023年末に前年比プラス2.9%の7833億ドルと、5年連続で国・地域別首位となっている。この点は日米経済関係に詳しい識者が何回も指摘しているところであり、石破首相もトランプ大統領に対して詳しく説明すると予想される。
とはいえ、日本側の主張に新味がなければ、トランプ大統領が日本に対して「変化に対応できない国」と言うらく印を押して、冷たく突き放すリスクもあるのではないかと懸念する。
日米首脳会談で石破首相が日本として何を主張するのか。石破首相にとっては政権発足以来、最大の正念場を迎えることになる。
いずれにしても、2月の日米首脳会談までに米国の対日要求リストが日本側に通告される、と筆者は予想する。もし、石破首相がその要求を「丸飲み」するなら、国内産業の保護のために多額の補助金や新たな産業政策の立案が必須となる。「新たな高み」を目指す日米関係は、日本から見ると新たなコストの発生ということになる公算が大きいのではないか。
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