一歩先の経済展望

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中国株上昇は一時的か、利下げだけで対応不能な資産デフレ 長期化のおそれ

2024-09-25 15:02:20 | 経済

 中国人民銀行が24日、幅広い金融緩和措置と不動産市場支援策を発表したことで、中国と香港の株式市場は24、25日と株価が続伸した。一方で25日の日経平均株価は小幅反落したが、海外勢を中心にした短期筋が日本株よりも中国株を選好した結果とみられている。

 ただ、金利操作に偏重した人民銀の政策対応だけでは住宅価格の下落に端を発した資産デフレの流れを止めることは難しく、数カ月後にはその実態がマーケットにも伝わって中国株は下落局面に入る可能性があると予想する。中国経済低迷の元凶と言える過剰な住宅供給という実態にメスを入れ、財政資金による大規模な未着工住宅の処理などに手を付けなけれ、住宅価格下落と消費低迷が同時に進行する「21世紀版の中国デフレ」を深刻化させかねない。中国依存度の高い日本企業は、中国経済低迷の長期化を覚悟する必要が出てきたと指摘したい。

 

 <広範な人民銀の政策パッケージ>

 人民銀の潘功勝総裁は24日の会見で、近日中に銀行の預金準備率を50ベーシスポイント(bp)引き下げると表明。年内にさらに25─50%bpの引き下げの可能性があるとも述べた。また、具体的な日時は明言せずに新たなベンチマークである7日物レポ金利を0.2%ポイント引き下げ、1.5%とし、中期貸出ファシリティー(MLF)金利は約30bp、最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)は20─25bp低下すると説明した。

 これに関連し、人民銀は25日に中期貸出ファシリティー(MLF)の金利引き下げを公表。期間1年のMLFの金利を2.30%から2.00%に引き下げた。

 24日の政策パッケージでは、既存住宅ローンの金利を平均で50bp引き下げるとともに、全ての種類の住宅について、頭金の最低必要額を価格の15%に引き下げることも公表した。

 さらに商業銀行が他の事業体の株式購入や自社株買い資金の調達を可能にすることを目的に、人民銀行が最大3000億元の低利融資を提供することも打ち出された。

 

 <自社株買い資金に人民銀の低利融資、中国株上昇の大きな材料に>

 マーケットが顕著に反応したのは、この最後の部分の自社株買い資金の調達を容易にするための人民銀の低利融資の提供だった。24日の上海総合指数は114.2078ポイント(4.15%)高の2863.1255で取引を終え、25日も1%超の上げ幅を維持している。

 一方、25日の日経平均株価は5営業日ぶりの反落となり、前日比70円33銭(0.19%)安の3万7870円26銭で取引を終えた。3万8000円付近の戻り売りに押されたとの見方があったが、複数の市場筋によると、海外勢を中心とした短期筋が中国株の選好を強め、アジアの取引時間帯での短期筋による日本株買いのパワーダウンが目立っていたという。

 

 <経済低迷の元凶は住宅価格の下落>

 だが、今回の人民銀の対応策だけでは、中国経済の元凶と言える住宅価格の下落などを起点にした資産デフレの現象を止めて、消費を上向かせて経済を活性化させることは難しい。人民銀行が2020年5月に発表したデータでは、都市部世帯住民の住宅保有率は 96%、そのうち 2戸保有が31%、3戸保有が10.5 %だった。

 その住宅価格の下落に歯止めがかからない。8月の新築住宅価格指数は、主要70都市のうち67都市で前月比マイナスとなった。半数を上回る都市での下落は15カ月連続となった。

 

 <膨張した空き家、住宅価格下落が消費低迷に>

 この下落の背景には、住宅市場の需給が大幅に供給過剰になっていることがある。中国当局から正確なデータが公表されていないものの、ロイターの取材に対し、中国政府の元高官は2023年9月の段階で、中国国内にあるマンションの空室や空き家の規模は、中国の総人口14億人で埋め切ることは不可能かもしれないとの見方を示していた。

 また、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は今年5月、中国国内で6000万戸の集合住宅が売れ残っており、政府の支援がなければ売却に4年余りかかるとの試算を公表している。

 この供給過剰問題の解決に政府が乗り出し、住宅価格の下落に歯止めをかけないと、消費の低迷による様々なマイナスの波及効果が中国経済全体に及び、中国経済全体の低成長を長期化させるという悪いシナリオを現実化させかねない。

 実際、8月の中国国内の新車販売台数は前年同月比でマイナス10.7%と落ち込んでおり、8月の消費者物価指数(CPI)は半年ぶりの高水準と言いながら前年比プラス0.6%にとどまっている。8月生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス1.8%に落ち込んだ。

 

 <供給過剰解消に必要な財政資金、阻む2つの要因>

 デフレ的な色彩をこれ以上、強めないようにするには資産デフレの発生源とも言える住宅市場における供給過剰を公的資金の投入で止める必要があるが、2つの理由でためらっていると思われる。1つ目は、大規模な未着工ないし完成後の空き家になっている住宅を公的資金で買い取るには数兆元単位の財政資金が必要になり、その財源をどこに求めるべきか中国政府内に異論が多いとみられていることだ。

 2つ目は、出来すぎたキャベツをトラクターで押しつぶして生産調整するようなことは、農村部で十分な住宅環境に恵まれていない中国国民の反感を買うだけでなく、安い住宅を供給するという中国当局の基本方針に反するという面があるからだと筆者は予想する。

 

 <危惧される日本の失われた30年の再来、日本政府と企業も覚悟必要>

 しかし、このまま手をこまねいていては、せっかく人民銀の金利操作で稼いだ「時間」を無駄に使ってしまうことになりかねず、マーケットが当局に「無策」の烙印を押すようになれば、中国株と人民元に売り圧力がかかり、その先はマネーの中国からの逃避が鮮明になるという悪い展開が控えることになるだろう。

 中国向けの売上高比率が高い日本企業の中には、すでに気付いているところがかなりあるのではないか。「これはどこかで見た風景によく似ている」と・・。日本が1990年代後半から経験したバブル崩壊の過程では、何回も政府が総合経済対策を打ち出し、そのたびにいったんは株価が上がるものの、本丸の不良債権処理に手を付けるまでは、出口の見えない堂々巡りとなり、やがて「失われた30年」となってしまった。そのプロセスに中国も入ってしまった可能性があるのではないか。

 中国ビジネスが主戦場の日本企業は、中国政府がいつまでたっても住宅市場の供給過剰に手を付けないのであれば、ある種の決断をする時が来ると予想する。

 また、新たな首相の下に発足する日本の内閣は、中国経済の低迷が長期化した場合に何が起きるのか、今から詳細なシミュレーションを作成するべきだろう。


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