腐った林檎の匂いのする異星人と一緒
33 自分探し?
(特徴のない人には名前が必要なのだ)
ねえ、覚えてる、あの子?
何て子?
(伏し目がちでそこらの小物を弄りながら)
名前なんか、いいの、どうでも。
いいのね。
(小物をゆっくりと元に戻しながら)
ほら、こんな髪の……
あなたみたいな?
(欠伸を噛み殺しながら)
ええっと、ジュ……じゃなくて。
ジェ? じゃないか。
(自分の爪を眺めながら)
名前なんか、どうでもいいの。
その子がどうかしたの?
(ゆっくりと顔を上げながら)
いなくなったって。
屋上から身投げしたって人?
(瞳をぐるぐると回しながら)
知らない。
橋の上からだっけ?
(指先をこめかみに当てながら)
どこの?
もしかして自分探し?
(声を出さずに笑いながら)
意味わかんない。
……時空探し?
(掌を擦り合わせながら)
だといいけどね。
尖ったのとか丸いのとか。
(両手で尖ったのと丸いのを作りながら)
ああ、それそれ。
どっちよ。
(見えない何かを載せた両手を広げながら)
どっちもどっちよ。
古いの? 腐ってんじゃない?
(指を組んで掌をゆっくりと突き出しながら)
意外に穴だらけだったりしてね。
意外と言えば、こないだの夜更け、空飛ぶ円盤が……
(片方の瞼をぴくつかせながら)
あっ、誰かいる。
どこ、どこ。
(別のことを考えながら)
街路樹の下。
林檎を拾った。
(目を閉じながら)
なあんだ。いるんだ。
でも、あれ、映画じゃない?
(存在しないミシンを踏みながら)
ええ? そうなんだ。
でも、ここ、五月雨館?
(泣きそうになりながら)
じゃないな。
じゃ、映画の中?
(笑いそうになりながら)
うふふ。ゲームの中だったりして。
何てゲーム?
(記憶を探りながら)
ああ。こっち、来る。
そうかな?
(独りじゃんけんをしながら)
やだ。逃げよう。
どこへ?
(じゃんけんを続けながら)
ああん。もう。ちょっと、黙っててよ。
チャック!
(口チャックのジェスチャーをしながら)
やっぱり、あの子だよ。
あなたじゃなくて?
(胸に当てていた指鉄砲を水平に差し出しながら)
知らない。
だから、名前はってば。
(必要ならば、あなたが名付けなさい)
(終)
(写真 円錐)