ヒルネボウ

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聞き違い ~筋肉

2023-08-10 23:33:29 | ジョーク

   聞き違い

    ~筋肉

我々だ 笑われた

ぶきっちょ 武器一丁

懐かしい 夏おかしい

筋肉マン 気に喰わん

(終)


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夏目漱石を読むという虚栄 6540 「他人の生活に似た自分の昔」

2023-08-10 23:33:29 | 評論

夏目漱石を読むという虚栄

6000 『それから』から『道草』まで

6500 近道の『道草』

6540 「他人の生活に似た自分の昔」

6541 テニス・ボール

 

多くの人は次の場面の重要性に気づかないのだろう。

 

<「おれが死んだら、どうか御母さんを大事にして遣ってくれ」

 私はこの「おれが死んだら」という言葉に一種の記憶を有(も)っていた。東京を立つ時、先生が奥さんに向って何遍もそれを繰り返したのは、私が卒業した日の晩の事であった。

(夏目漱石『こころ』「中 両親と私」十)>

 

しゃべっているのは、Pの父だ。

Pは次男だから、彼に「御母さん」が託されるのは、おかしい。Pは「父」に利用されているのだ。同様に、宿親のSにも利用されている。そのことに作者は気づかない。

『美しい人』(ガルシア監督)に、サマンサという哀れな少女が出てくる。彼女の両親は家庭内別居をしている。彼女は両親の間を行き来し、メッセンジャーを務める。孝行娘を演じて楽しんでいるのだ。空笑い。両親は、彼女に家を出て進学するように勧めるが、彼女は拒む。両親は〈娘を犠牲にする親〉といった世間の非難を免れたいのだろう。そんなことも、賢い彼女には忖度できている。賢い自分が可愛い。

 

<平生食卓を賑(にぎ)やかにする義務を有(も)っているとまで、皆(みん)なから思われていた自分が、急に黙ってしまったので、テーブルは変に淋(さみ)しくなった。

(夏目漱石『行人』「帰ってから」二十三)>

 

「皆(みん)なから思われていた自分」は妄想的。「いた」は、〈いる〉が妥当。「自分」は二郎。「急に黙って」は意味不明。「食卓」が「テーブル」に変わる理由は不明。「変に」は変。

 

<彼女の家の家族構成は一つ屋根の下で、父、母、母の父、父の母、から出来上がっています。そして父親とその母親は、母親とその父親と対立しています。混合ダブルスなわけです。彼女はそのゲームのボールだったのです。この比喩の正確さを示す一例をあげてみましょう。この二つのサイドはお互いに、時には数週間も、直接的にコミュニケーションをすることを止めていることさえありました。その間は、ジェーンを通してコミュニケーションが行われました。食卓でもこの二組はお互いに直接話そうとはしなかったのです。母はジェーンに向かって「お父様に塩をとってくださるように言って」というのでした。ジェーンは父親に「お母さんが塩をとって下さいですって」というと、父親はジェーンに「お母さんに自分で取りなさいと言いなさい」というのです。ジェーンは母親に「お父さんが自分で取りなさいですって」というのでした。

(R.D.レイン『家族の政治学』「第一部 エッセイ」)>

 

「ジェーンは単純型分裂病の症状を呈し」(『家族の政治学』)ていたという。

『こころ』の作者は〈幸福なテニス・ボール青年Pの物語〉を構想したらしい。

 

 

 

 

 

 

6000 『それから』から『道草』まで

6500 近道の『道草』

6540 「他人の生活に似た自分の昔」

6542 「愛想(あいそ)を尽かされて」

 

少年健三はママゴンの手先となり、養父の探偵をやらされたらしい。

 

<ある晩彼は健三と御藤さんの娘の御縫(ぬい)さんとを伴れて、賑(にぎや)かな通りを散歩した帰りに汁粉屋へ(ママ)寄った。健三の御縫さんに会ったのはこの時が始(ママ)めてであった。それで彼等は碌(ろく)に顔さえ見合せなかった。口はまるで利(き)かなかった。

宅(うち)へ(ママ)帰った時、建三は御常から、まず島田に何処へ(ママ)伴れて行(ゆ)かれたかを訊(き)かれた。それから御藤さんの宅へ(ママ)寄りはしないかと念を押された。最後に汁粉屋へ(ママ)は誰と一所(いっしょ)に行ったという詰問を受けた。健三は島田の注意に拘(かかわ)らず、事実を有のままに告げた。然し御常の疑いはそれでも中々解けなかった。彼女はいろいろな鎌(かま)を掛けて、それ以上の事実を釣り出そうとした。

「彼奴(あいつ)も一所なんだろう。本当を御云い。云えば御母さんが好(い)いものを上げるから御云い。あの女も行ったんだろう。そうだろう」

彼女はどうしても行ったと云わせようとした。同時に健三はどうしても云うまいと決心した。彼女は健三を疑(うたぐ)った。健三は彼女を卑しんだ。

「じゃあの子に御父(おと)ッさんが何と云ったい。あの子の方に余計口を利くかい。御前の方にかい」

何の答もしなかった健三の心には、ただ不愉快の念のみ募った。然し御常は其所で留(と)まる女ではなかった。

「汁粉屋で御前を何方(どっち)へ(ママ)坐らせたい。右の方かい、左の方かい」

嫉妬(しっと)から出る質問は何時まで経(た)っても尽きなかった。その質問のうちに自分の人格を会釈なく露(あら)わして顧り(ママ)見(ママ)ない彼女は、十(とお)にも足りないわが養い子から、愛想(あいそ)を尽かされて毫(ごう)も気が付かずにいた。

(夏目漱石『道草』四十三)>

 

「彼」は養父の島田。「御藤」は藤尾と関係がありそうだ。「御縫」は健三と御   藤を縫い合わせるためにいた。

「それで」は変。島田は、〈御縫と健三が親しめば、御常と別れるときに金蔓の健三を連れて行こう〉と考えたのだろう。島田の作為が感知され、子どもたちは緊張した。

「帰った時」は〈独りで「帰った時」〉の略か。「御常」は養母。この名前は「一遍起った事は何時までも続くのさ」(『道草』百二)という述懐と無縁ではない。彼女は「色々な形に変る」(『道草』百二)のだ。養母に関連した物語が空想されがちなのだろう。

「島田の注意」とは〈今日のことは黙っていろよ〉などだろう。ただし、何を隠すべきなのか、幼い健三にはわからなかったろう。だから、結果的に彼は養父を裏切り、養母の手先になってしまった。彼が以前から探偵だったからでもあろう。健三は〈自分は「父」を裏切って「母」の手先になった〉という後ろめたさを抱いて生きてきたのに違いない。

「愛想(あいそ)を尽かされて」は〈「愛想(あいそ)を尽かされて」「も」おかしくないような態度を自分がとっていることに〉などの異様な略であるはずだ。

 

 

6000 『それから』から『道草』まで

6500 近道の『道草』

6540 「他人の生活に似た自分の昔」

6543 「自分の事とは思えない」

 

やがて養父母は離婚した。少年健三は、軽蔑すべき養母に頼るしかなかった。

 

間もなく島田は健三の眼から突然消えて失(な)くなった。河岸(かし)を向いた裏通りと賑(にぎや)かな表通りとの間に挾(はさ)まっていた今までの住居(すまい)も急に何処(どこ)かへ行ってしまった。御常とたった二人ぎりになった健三は、見慣(みな)れない変な宅(うち)の中に自分を見出だした。

(夏目漱石『道草』四十四)

 

「眼から」は〈「眼」の前「から」〉の略のようだが、〈回想の「眼から」〉の略らしい。

「挾(はさ)まって」だと、まるで「通り」が壁だったようだ。

〈少年健三が「自分を見出だした」〉というのは変だ。〈回想する中年健三が少年健三を「見出だした」〉のだろう。二種の物語が混交しているわけだが、この混交が文芸的表現として通用するとは、私には思えない。作者の混乱の露呈のように思える。

 

<御常は会う人毎に島田の話をした。口惜(くや)しい口惜しいと云って泣いた。

「死んで祟(たた)ってやる」

彼女の権幕(けんまく)は健三の心をますます彼女から遠ざける媒介(なかだち)となるに過ぎなかった。

夫と離れた彼女は健三を自分一人の専有物にしようとした。また専有物だと信じていた。

(夏目漱石『道草』四十四)>

 

「祟(たた)ってやる」という言葉が「御百度」(『夢十夜』「第九夜」)の素材だ。

健三は「母」の「専有物」ではないが、「拝殿に括りつけられた子」だった。〈「母」は「子」を「信じて」いる〉と、彼は思い込んだ。この思い込みが「細帯」だ。自縄自縛。

 

<「考えるとまるで他(ひと)の身の上のようだ。自分の事とは思えない」

健三の記憶に上(のぼ)せた事相は余りに今の彼と懸隔していた。それでも彼は他人の生活に似た自分の昔を思い浮べなければならなかった。しかも或る不快な意味に於(おい)て思い浮べなければならなかった。

(夏目漱石『道草』四十四)>

 

健三は、〈「今」の物語〉と〈「昔」の物語〉を切り離すことに失敗した。「懸隔して」いるようでいて、実際には「不快な意味」において継続しているのだ。『道草』の最後で、そのことが仄めかされる。「不快な意味」は意味不明。

「今」の健三が「昔」の「事相」をあたかも「他(ひと)の身の上」のように空想し、「記憶」を解体して組み立て直すことに成功したならば、「一遍起った事は何時までも続くのさ」(『道草』百二)と述懐することはなかったろう。健三にできないことが語り手にできていたら、健三のこの述懐は語り手による皮肉の表現となりえたろう。

(6540終)


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