ロングビーチ市は先月13日、ロサンゼルス・タイムス、ロングビーチ・ポストら地元報道機関の求めに応じて、ロサンゼルス・エンゼルスの本拠地誘致計画に関する文書を公開した。それによると、新球場の建設費用は11億米ドル(約1200億円)を超える見込みであることが明らかになった。
今年の初め、エンゼルスは現在の本拠地球場であるエンゼル・スタジアム(アナハイム市)の現リース契約を1年延長して、2020年末まで同地に留まることを発表した。そのすぐ後でロングビーチ市への移転誘致計画の存在が2月に報じられ、地元マスコミを中心にエンゼルスの行き先が様々に論じられてきた。
誘致計画はロングビーチのダウンタウンにあり、現在は駐車場やサーカスなどの単発的イベント会場として使われている広大な敷地に新球場を建設するものだ。実現すれば、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地オラクル・パークのようなウォーターフロントの球場となると予想されている。市は2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けて、ダウンタウン一帯の再開発を進めており、新球場はその一環としても捉えられている。
今回ロングビーチ市が公開した文書は500ページ以上にも及ぶ。それによれば、総額11億米ドル(約1200億円)の内訳は球場建設に9億米ドル(約987億円)、利子に2億米ドル(約219億円)、さらに追加で駐車場を建設する場合の1億米ドル(約110億円)となっている。
その財源として、新たな税、リース代、駐車場収益、命名権などが提案されているが、そのどれを採用するにしても納税者の合意が必要となる。ロングビーチ市は2016年にカリフォルニア州でも2番目に高い消費税率(10.25%)を導入したばかりであることを考えると、さらなる税負担が市民から理解を得ることは難しいと予想される(アナハイム市の現在の消費税率は7.75%である)。
もしエンゼルスがロングビーチ移転を正式に決定したとしても、新球場の完成は早くても2025年以降になるとも文書は指摘している。従って、エンゼルスは移転するにしても、アナハイムに残留するにしても、2020年末に失効する現リース契約のさらなる延長を含めた交渉が必要になる。同様のケースとして、NFLのレイダースが2020年からのラスベガス移転を決定しながらも、新スタジアムの建設が完了するまでの2019年シーズンを現本拠地のオークランド・コロシアムに留まったことが挙げられる。
ロングビーチ市はロサンゼルス郡とオレンジ郡のちょうど中間地点に位置する港湾都市だ。チーム名を「ロサンゼルス」としながらも、これまではエンゼルスのファン層はオレンジ郡、ドジャースのファン層はロサンゼルス郡と棲み分けが出来ていたわけだが、ロングビーチは伝統的にドジャース・ファンが多く、エンゼルスが新たなファン層をこの地で獲得するのは難しいかもしれない。例を挙げると、昨年9月にドジャースのオーナーグループに加わった元テニス女王のビリー・ジーン・キング女史はロングビーチの出身で、子供の頃からのドジャース・ファンであったとインタビューで語っている。
エンゼルスのチーム設立は1961年。以来60年近くに及ぶ長い年月をかけて築き上げたファン層があるロサンゼルス近辺から離れる選択肢はないようではあるが、ドジャースと競合するロングビーチは地理的に見るとあまり良い条件とは言えないだろう。
実は球団創設まもない1963年にもエンゼルスをロングビーチへ誘致する計画が持ち上がったことがあった。エンゼルスはそれまでドジャー・スタジアムを間借りしていた。当時のロングビーチ市長ジョン・マンセル氏がチーム名を「ロングビーチ・エンゼルス」とすることを主張し、エンゼルスの初代オーナーであるジーン・オートリー氏に拒絶された経緯がある。