今日の散歩は
駅の向こうの山の中だった。
結局2時間半もお母さんと歩き続けた事になっちゃったよ。
駅の向こうの山は、お兄ちゃんが小さいときに
お母さんと良く散歩した道だったらしい。
その後も、畑の野菜作りを手伝ったり、
日の出を見に行ったり、
お母さんには、思い出の多いところだったみたいよ。
右に富士山が見えて、ピンク色に染まった頃
左に太陽が出てきて、それは綺麗だったと
お母さんはつぶやいた。
その山は、遺跡の発掘で平らになっていて
もう・・・何にもなくなっていた。
山のてっぺんにあった、小さな小さな神社だけが
一人ぼっちで残されていて・・・
ティナも一緒に、その神社でお参りをしたけれど
あまりにも不自然に神社だけが残っている感じがしたの。
この神社にはカブトムシを取りに、明け方お兄ちゃんと、
山の中の道を二人だけで歩きながら、
ちょっと、恐い思いをしながら来たらしい・・・
で、・・・カブトムシは取れなかったけれど
日本クワガタは取ることができたのよ!
お母さんはティナに教えてくれた。
ティナは日本クワガタがどんな形をしているのかは知らないんだけど
「ふ~ん、そうなの?」
お母さんの目を見つめて、答えたのよ。
「東京サンショウウオ」も、すぐ上の山にいて、
みんなで保護を訴えたこともあるんだ~
そんな話を聞きながら、山道を登って行ったんだ~。
ほんの何年か前の姿は、すっかりなくなっていたらしい。
小川の流れる道の脇には、日本のタンポポが、ひめやかに咲いていて、
だけど、その小川はコンクリートに覆われていた。
ティナは、舗装された道を駆け上り、
枯葉の落ちた山道をピョンピョンと走り
お母さんにどこまでも着いていったの。
「ここはお母さんが『かぐや姫の小道』と名づけた、朝日に金色に光る竹の林だったのよ」
だけど、そこには金色に光りそうな竹の林はなかった。
途中からはお母さんの口数も少なくなってしまったよ。
よほど、この山が気に入っていて
かなり、変わってしまったみたいなんだ~
牛を飼っていた家も何軒かなくなって、
公園みたいになっていたり
家が建っていたり・・・
綺麗な花が沢山咲いていたところも
大きなマンションになるみたいに、工事中だった。
昔の面影が残っているところはほんの一部で
そこには、牛の匂いがした。
私の大好きな牛乳ができるところなんだと
お母さんが話してくれたよ
おじぞう様や小さな神社やお墓が
あちこちにポツポツと・・・
そこだけが、離れ小島のように
寂しい感じで残っていたんだ~
前は通れた山道に、無理やり入ってみたら
草がぼーぼーと、生い茂っていて
とても、前に進むことはできなかった
だから、反対に進んでみたら
毬栗が沢山落ちていて
ティナはどこを歩いたらいいのか
困ってしまったの。
お母さんは抱っこして
「こんなになっちゃって・・・」
と、言いながら
元来た道に戻っていったの。
ティナには初めての場所だったから
ここが何処なのかは、わからずに・・・
でも・・・山道はとっても楽しかった。
歩いても歩いても、なかなか家には帰れなかった。
やっと、近くに帰ってきたとき
お母さんはとても疲れているみたいで
ティナが一生懸命に引っ張ってあげたのよ。
やっと、
家に着いて、一休みして
とってもお腹がすいてきた
「なんか頂戴」
お母さんにおねだりしたら
大好きなドックフードを口に入れて
「ふせ!」って言った。
また、始まった・・・
お母さんの大好きなお勉強???
”ふせ”なんか知らない。
だけど、沢山歩いてお腹がすいているから
お母さんの手の動くように
ティナの体を動かしてみる。
手が下の方にあるから
身体を低く構えてみた。
「そうよ!そんな感じ!」
お母さんは一粒ドックフードをくれたのよ!
そして・・・それから何回か「ふせ!」の練習をしたの。
だんだん・・・少しづつ・・・判ったような気がしたよ!
こんなふうに手を前に出して、ネンネみたいに”ぺたっ”とすればいいのかな?
お母さんがとても嬉しそうに
「ティナちゃん、すごい!」
私、すごい???