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中国のウイグル族拘束、次はイスラム社会の破壊へ

2019-03-23 11:53:27 | 民族・人種問題・宗教・人権問題(差別・迫害)

中国のウイグル族拘束、次はイスラム社会の破壊へ

 First Detention, Now Demolition: China Remakes Its Muslim Region | WSJ

 

 

【ウルムチ(中国)】中国西部のシルクロード沿いにある古いこの町では、膨大な人数の拘束を

含む治安維持キャンペーンが次の段階へと移行していた。それは、(ウイグル族の)地域社会の破壊と

文化の一掃だ。 

 

 ウルムチでイスラム教徒主体のウイグル系住民に対する当局の一斉拘束が開始されてから2年が経ち、

ウイグル族の生活とアイデンティティーの根幹部分はその多くが根絶やしにされた。がらんどうの

モスクは残っているが、その周囲にあった貧しい家々は、中国各地でよく見られるような、ガラス張りの

ビルと商店街に変わった。

 ウイグル族の社会にとって、ナンと呼ばれる丸く平たいパンは、フランス人にとってのバゲットの

ようなものだったが、焼きたてのナンを売る屋台は姿を消した。かつてナンを焼いていた若い男たちの

姿も、ナンを買う人々の姿も見られなくなった。新疆ウイグル自治区の首府であるウルムチ市は、

長らく世界のウイグル人社会の中心だったが、ウルムチの書店にウイグル語の書籍は見当たらない。


 古くからウルムチの広範な地域を特徴付けてきたチュルク語文化は、中国人観光客向けに整えられた

別バージョンに取って代わられた。かつてはウルムチのウイグル族地区の中心的繁華街だった二道橋

地区付近では、ナンを焼く窯が姿を消し、代わりに土産物屋で、ナンを模した手鏡や栓抜き、カバーに

ナン風のプリントを施した装飾用クッションなどが売られていた。

 こうしたウルムチの変革は、中国共産党によるウイグル族同化政策の最新の側面だ。中国政府は、

拘束措置はテロリズムに対処するものであり、取り壊しはこの地域への何十億ドルもの投資と相まって、

発展をもたらしていると主張する。


 新疆ウイグル自治区政府のショハラト・ザキル主席は先週、中国の全国人民代表大会(全人代)で

「民族の団結が、中国国内のすべての民族グループのライフラインであり、新疆ウイグル自治区の

経済発展の基礎である」と演説した。

 専門家らによれば、共産党の目標は、以前から反抗的だった新疆ウイグル自治区を思い通りの

イメージに作り変えることで支配を強化し、同自治区を世界規模の開発を行うとする習近平国家主席の

野望の拠点の一つにすることだ。


 ウルムチの都市再開発計画が2017年に発表された際、共産党系の新疆日報は、中国政府としては、

移転を強いられた住民に対して補償を行い、「全ての民族グループの習慣と利便性に全面的に配慮して

設計された」新たな居住区を設ける計画だと伝えた。ウルムチ市と新疆ウイグル自治区の政府は、

この都市再開発計画について、コメント要請に応じていない。

ウルムチのバザールでウイグルの伝統的踊りを披露する女性。市当局による観光振興策の一環だ 

中国共産党は、新疆ウイグル自治区の1400万人のチュルキ語系イスラム教徒(その大半はウイグル族)

の中には暴力的で過激な傾向を持つ者がいると主張し、これに対処するための強力な対策を進めてきた。

  

 国連の専門家らによれば、この「過激化阻止」目標達成のため、中国当局は、100万人もの

 イスラム教徒を抑留施設に収容し、他の多くの人々を電子機器による監視下に置いた。

 中国の指導者らは、これら収容施設について、職業訓練センターだと説明し、世界的なテロとの

 戦いの新戦略として宣伝している。また、100万人という人数についても反論している。

 

 ウルムチ在住で、国有資源会社に勤務するあるウイグル族の男性は「われわれはもはや、文化を

 持つことはできない」と語った。彼は、当局者が家にやってきて、コーランを没収した後、地域の

 モスクに行かなくなったという。「だれも(モスクに)行かない。危険すぎるからだ」

  

 米ワシントン大学でウイグル族の移動状況について研究しているダレン・バイラー氏は、政府が

 ウイグル族の独自性を示すものを制限したり、それを文化的に低俗なものとして扱ったりすることで、

 民族のつながりを弱めようとしていると指摘する。

  

 1980年代にポスト毛沢東の改革の時代が始まって以降、ウルムチでは、爆弾事件、抗議行動や

 その他の民族的な不和が生じている。2009年の暴動では200人近くの死者と、それ以上の負傷者が出た。

  それ以降、中国共産党はくすぶり続けるウイグル族の分離主義運動の火をもみ消そうと、徐々に

 強い行動に出るようになっている。中国政府は分離主義者たちがイスラム急進派から刺激を受けて

 いると述べ、その後何年かにわたって起きた暴動や一連のテロ攻撃が彼らの責任だとしている。

  

 学者や人権擁護活動家は、暴力の大半が厳格な取り締まりや宗教に対する制限への反発であり、

 自分たちの故郷だと思っている場所で疎外されているという認識がウイグル族の間で広がっている

 ことへの反発でもあると述べている。

  

 市内のウイグル族が多く住む地区にある、かつて人気だったライブミュージックバーの従業員は、

 「多くの人々が去った」と話した。訪れたのは土曜の夜だったにもかかわらず、店内には辛うじて

 十数人の客がいる程度だった。彼に人々はどこに行ったのかと聞いても答えなかった。

 「それは政治的な問題だ。答えられない」。間もなくして3人の男がバーに入ってきた。うち1人は

ボディーカメラを装着していた。彼らは ウイグル族の客の身分証番号を控えた。従業員によると、

男たちは地元当局から派遣されており、こうした立ち入り検査は日常的に行われているという。


 ウルムチの過去の街並み。多くの建物はすでに存在しない。町の南部(1920年 左)ウルムチの旧南門(1910年 右) 

 


商業地区(1981年 左)、市内のウイグル族が多く住む地区にある洋裁店(1987年 右) 

 

  しかし、2017年の1年間で、ウルムチの公式な人口は前年の260万人から220万人へと15%減り、

 30年以上で初の減少に転じた。

  住民によると、市の警察はその年の5月にウイグル族を一斉に検挙し、収容所へ送還し始めた。

 住民によると、同じ頃にウルムチの当局は新疆の他地域から同市に移住して来た人々を強制的に

 故郷に送り返したという。ウルムチ市はその後、新たな民族別の人口構成を明らかにしていない。

 

  ウイグル族が市から強制的に追放されるなか、政府の資金が流入した。中国政府はウルムチに

 「一帯一路」構想のハブとしての役割を担ってほしいと考えている。ウルムチ市は昨年、60億ドル

 (約6700億円)の空港拡張計画を承認したほか、市郊外で40億ドルの建設プロジェクトに着手した。

 この中には一帯一路の工業団地も含まれる。

  公式なデータによると、2017年のインフラ、工場やその他の固定資産への総投資額は2020億元

 (約3兆3200億円)と、前年から25%増加した。18年1~10月の総投資額はさらに9%増加した。

 

 ウルムチ市は昨年、市内の貧民街の取り壊しと再建のために700億元の資金を割り当てた。

 貧民街には新疆南部から移住してきたウイグル族が多数住んでいる。当局は若い移住者、つまり、

 ナンを焼いているような人たちが暴力をそそのかしており、急進派が取り込もうとする格好のターゲット

 になっているとみている。

  取り壊された貧民街の一つが、黒家山地区だ。かつては市場と2つのモスク(イスラム教礼拝堂)の

 周りに低層の簡易な小屋が無秩序に建てられていた。前出のワシントン大学のバイラー氏によると、

 2017年から18年にかけて取り壊されるまで、この地区は移住してきたウイグル族の生活の中心と

なっていた。

  同氏によると、「金曜日には5000人から1万人の人々が礼拝に来ていた」という。

  

 ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)の記者が最近行った現地取材では、モスクは高層アパートの

 影になりながらも依然として存在していたが、閉鎖されているようだった。こうしたモスクを撮影

 しようとしたところ、記者らは拘束され、近くの警察署に連行された。

  警察での尋問の際、シン(Xing)と名乗る地区宣伝担当当局者は、政府がモスクを破壊しないよう

 注意を払ってきたとし、「このことは政府がイスラム教を尊重していることを示すものだ」と強調した。

 

 中国国営メディアによれば、ウルムチには2015年の時点で400以上のモスクが存在した。

 過去数年間に閉鎖されたり、他の目的に転用されたりしたモスクは数カ所だが、現在でも使用されている

 モスクの周りには有刺鉄線と監視カメラが設置され、わずかに年配の礼拝者が訪れるだけだ。

 

ウルムチの二道橋地区にあるモスク(11月撮影) 

 

 

 ウルムチに住んだ経験があり、新疆ウイグル自治区内で行方不明になった少数民族の人々に関する

データベースの管理を支援しているロシア系米国人、ジーン・ブーニン氏によれば、中国当局者は

このところ、勾留していた人々の一部を釈放し、自宅軟禁に切り替え始めている。

 同氏によると、昨年12月、国際メディアや国連で収容施設に対する批判が高まった後、

 拘束されていた人物の友人や親族から釈放の報告が寄せられるようになったという。

 

 ドイツの社会技術学校研究員で中国の民族政策専門家のアドリアン・ゼンズ氏によれば、

 中国共産党の目的はウイグル族の根絶ではなく、ウイグル文化からイスラム教の影響を取り除き、

実態のない見かけ上の文化的多様性を示すことにあるという。

  ゼンズ氏は「自動的にそうなるはずだった。物質的進歩により大衆は宗教というアヘンから救い

 だされるはずだった。現体制は歴史の流れに手を貸そうとしている」と指摘した。

 

  新疆ウイグル自治区の当局者らはまた、観光産業の推進を目指しており、投資が拡大すれば、

 過激思想を助長していると彼らが主張する貧困の根絶に貢献すると考えている。

  ウルムチ中心街の北部に新たに設立された総面積22万6000平方フィート(約2万1000平方メートル)

 「ナン・カルチャー・インダストリー・パーク」で観光客はナンを積み上げたような彫刻作品の下で

 写真用のポーズを取ったり、食品生産工場で生産された150種類以上のナンを購入したりすることが

 できる。

 

 共産党系の地元紙は今年1月、同パークに関する記事で、「スタッフらは白い服を着用し、

 その清廉なイメージは『好感度指数』を大幅に引き上げている」と指摘した。

  観光に力を入れていることは、かつてのウイグルの商業的中心地にあった二道橋バザールの

変化にも見ることができる。この周辺は2009年の大規模暴動の際、最も深刻な暴力事件の起きた

 場所だった。2017年11月にWSJの記者が中国政府によるウイグル族監視の状態を記録するために

 訪れた際、二道橋地区は活気にあふれていた。

 

  それから1年後、その場所はまるでテーマパークのように変わっていた。

  かつては車と歩行者、警察の駐在所で混み合っていた通りは、通行をチェックする大きな

 セキュリティーゲートのある2本の遊歩道になった。バザールの中心部では以前、ウイグル語で

 話す商人たちの声が聞こえていたが、現在では中国語と英語の元気のよいあいさつがスピーカー から

流れている。

 

 「観光客の皆さん、こんにちは!」。録音メッセージは観光客に「シルクロードの商業拠点の

 素晴らしい復活」を楽しんでくださいと語りかけている。

 

2018年10月に撮影されたウルムチの夜景

 


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