南シナ海で中国に対抗するインドネシアの武器-資源と漁場
2016 年 7 月 11 日 12:32 The Wall Steet Journal
南シナ海での中国の大胆な領有権主張は東南アジア各国に懸念を生じさせている。
ハーグの常設仲裁裁判所は12日に中国の主張の合法性について判断を下すが、中国側には不利な内容になるとみられている。
一方で中国政府は、裁判所の判断を無視する構えを示している。
インドネシアは、中国と間では領有権をめぐる争いはないと述べている。
中国は、ナトゥナ諸島(ボルネオ島の北西沿岸に位置する一連の島々)をインドネシアが支配していることに異議を唱えていないが、
その周辺海域での漁業権を主張している。
中国の長期的な野心への懸念が強まるなか、インドネシアは他の東南アジアの国々と同様、
経済的および軍事的なプレゼンスを拡大している。
インドネシ ア海軍の西方艦隊司令官、Achmad Taufiqoerrochman少将は、ナトゥナ諸島周辺で3月以降、
中国漁船の数が増えていると指摘。
仲裁裁判所による判断を前に、漁業は中国がこの 地域への権利を主張する口実になっていると述べる。
インドネシアは、油田とガス田の開発を進め、より多くの漁師をナトゥナ諸島に集める ほか、
港や滑走路を造ることを目指している。
それは、ナトゥナ諸島周辺の油田、ガス田および豊かな漁場に対する自国の権利を守るためだ。
ナトゥナ諸島の周辺海域を訪れたインドネシアのジョコ大統領
ジョコ大統領は先 月、閣僚たちに対し、「ナトゥナ諸島周辺の16の石油・ガス鉱区のうち、
生産が行われているのは5つだけで、7つは探査段階、4つは終了段階にある」と述 べ、
「生産プロセスに直ちに入れるよう皆が協力してもらいたい」と述べた。
石油・天然ガスの生産を増強すれば、ナトゥナ諸島周辺海域で インドネシアが地歩を固めるのを後押しし、
同国が管轄している同諸島周辺200カイリの排他的経済水域(EEZ)に異議を唱えようとするいかなる国にとっ ても
リスクが高まる可能性がある。この水域は、インドネシアが国際法の下で権利を持つと主張している。
この水域の経済的資産の所有権を持つことで、インドネシアが軍艦および沿岸警備隊の船舶で同諸島周辺のパトロールをする正当性
は高まり、他国が入ってくることを一段と抑えられる可能性もある。
だが、インドネシアがエネルギーの生産を即時に拡大するのは、開発費用が高額なだけに、難しい公算が大きい。
コノコフィリップスやシェブロンなどの石油大 手は、この海域の鉱区の権益を一部手放そうとしている。
石油・天然ガス価格の低迷が一因だ。東ナトゥナ・ガス田への投資を検討している企業は、
最大400 億ドル(約4兆円)の費用がかかる可能性があると述べている。
一方で、ジョコ大統領の指示は、東南アジア各国による幅広い取り組みを反映している。
中国の影響力が強まるなか、東南アジア諸国が南シナ海における経済・軍事的プレゼンスを拡大しようとする動きだ。
中国は「九段線」という境界線を設定し、 南シナ海のほぼ全域について領有権を主張している。
南シナ海は年間5兆ドル(約500兆円)相当の物資が通過する海域であり、天然資源も豊富だ。
米エネル ギー情報局(EIA)によると、確認・推定埋蔵量は原油が約110億バレル、天然ガスが約190兆立方フィートに及ぶ。
これが、世界で最も手つかずのガス 層が南シナ海に存在すると言われる理由だ。
中国が領有権を主張する海域は、マレーシアやベトナムのほか、米国の同盟国であるフィリピン などが主張する海域と重なる。
また、米当局者によれば、中国はいくつかの人工島に地対空ミサイルを配備するなどの軍事機能をもたせている。
ストックホルム 国際平和研究所(SIPRI)は、中国の年間軍事費が過去10年間で3倍近くに増え、
2150億ドルに達したと推測している。
これに対応し、他の国々も軍事費を増やしている。
インドネシアは最近、他の公的部門が予算を削減するなか、2016年の国防費を計画水準から9%増 やすことを承認した。
マレーシアは新たな軍艦を発注したほか、石油掘削プラットフォームを前方基地に変える計画だ。
ベトナムはロシアからキロ級の潜水艦を 購入し、カムラン湾の再開発を終えた。
ここは水深の深い基地で、ベトナムは他国海軍による使用を促している。
一方、米国は14年に締結した防衛協定に基づき、フィリピンの5カ所の軍事基地に兵力を配備する計画を進めている。
今年6月には、南シナ海に近いクラーク空軍基地に米海軍の電子戦機「EA-18Gグラウラー」4機を配備した。
SIPRIによると、南シナ海の一部について直接的な権利を主張する中国以外の国・地域(ベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピン
と台湾)の軍事費の合計は15年までの10年間で2倍近くに増え、304億ドルに達している。
<中国の南シナ海岩礁埋め立て、前後の変化>
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