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糖質制限の是非を腸の専門家に問う(後篇) 食物繊維で考える腸内環境の整え方

2018-10-12 16:59:12 | 健康・糖質制限・ダイエット・衛生

糖質制限の是非を腸の専門家に問う(後篇)

食物繊維で考える腸内環境の整え方

2018.10.9(火) JBPRESS   漆原 次郎 日本科学技術ジャーナリスト会議理事

 
「スーパー大麦」とよばれる穀物に含まれる食物繊維が、大腸の奥の細菌まで届くという。写真は、スーパー大麦が入ったグラノーラ。

 

 

 健康でいられるか、病気になるか。これに大きく影響する「腸内細菌」に目を向けて、腸内環境を

改善するために試せることを取り上げている。


 前篇では、多様な腸内細菌たちがつくるコミュニティ「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」

(腸内フローラ)の存在が体のさまざまなところに作用すること、また腸内細菌叢の多様性を高めて

腸内環境をよくするには、食物繊維がカギを握っていることなどを伝えた。


 だが、食物繊維の摂取による腸内環境の改善を巡っては、長らく課題も指摘されてきた。

「大腸の奥の細菌が最も多く生息する部位まで食物繊維がなかなか届かない」という課題だ。多数の

細菌がいる大腸の奥にエサが届かなければ、食物繊維を摂る効果は薄れてしまう。


 この課題に対する有効打となりうる食材が、いま注目を集め、食品への実用化も進んでいる。

「スーパー大麦」と呼ばれる穀類だ。


 後篇では、スーパー大麦の機能性を見出している研究者に、その大麦の「スーパー」ぶりや、

私たちにどんな摂取の仕方があるのかを聞いてみたい。


糖質制限が食物繊維摂取量の減少に拍車をかける

「食物繊維とはどんなものかを、まず、みなさんに知ってもらいたいのです」

 こう訴えかけるのは、帝京平成大学健康メディカル学部教授の松井輝明(まつい・てるあき)氏だ。

 食物繊維は、糖質とともに、炭水化物を構成する要素だ。食物繊維と糖質が炭水化物で括られるのは、

食物繊維と糖質がともに「糖類」と呼ばれる物質でできているからだ。

ところが、「炭水化物 = 糖質 + 食物繊維」と理解している人は1割しかいないという調査結果もある。


「食物繊維とは、人の消化酵素では消化されず、吸収されないものと定義されています。

しかし、『炭水化物 = 糖質』という誤解があり、炭水化物ダイエットに勤しむ人は、目的としている

糖質だけでなく食物繊維の摂取量も減らしてしまっているのです」


 糖質を多く含む白米などの食材にも、食物繊維は少なからず含まれている。糖質制限ダイエットで

糖質の摂取を控えると、合わせて食物繊維の摂取量も減ってしまう。日本人の食物繊維摂取基準量は

男性で20グラム、女性で18グラムだが、1980年以降、長らく平均摂取量は12~14グラムとこの

基準値を下まわり、近年減少傾向にある。そうした状況で糖質制限ダイエットをすると、食物繊維の

摂取量減少に拍車がかかるわけだ。


「消化酵素で消化されず吸収されないのだからといって、食物繊維は要らないと思われては困ります」

 食物繊維は、人の体では消化も吸収もされない。だからこそ腸内まで達し、そこで役割を果たす。

前篇でも触れたとおり、食物繊維には水溶性と不溶性のものがあるが、「水溶性は腸内細菌のエサに

なります。一方、不溶性は、その物性で腸内の成分を絡めて便に排出するといった働きをもっています」。

 

食物繊維量2倍、難消化性デンプン量4倍で「腸の奥」まで届く

 腸内細菌たちに食物繊維というエサをどんどん食べてもらい、増えてもらえば、腸内環境は健全に

整っていく。だが、エサとなる水溶性の食物繊維を巡っては課題もある。

「多くは、小腸や大腸の入口にいる細菌たちに食べられてしまい、奥まで届かないのです。大腸の奥、

直腸や結腸にこそ腸内細菌が多くいるというのに」


 水溶性食物繊維の種類によっては、大腸の奥まで届くものがあることは知られていた。

たとえば「β-グルカン」は大腸の中ほどまで届き、「難消化性デンプン」は大腸の奥のほうまで届く

ことが知られていた。だが、大腸の入口から奥に至るまで均等に食物繊維が行き渡るような食材は

現れなかった。

「消化器内科医として、大腸の奥の直腸で生じる潰瘍性大腸炎・大腸がんなどと向き合っていました。

大腸の奥を含む腸管全域に食物繊維を届けて腸内細菌の多様性を増やし、腸内環境を整えなければと

思っていたところ、『スーパー大麦』というものの存在を知ったのです」


 スーパー大麦は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が開発した大麦だ。

「とにかく、食物繊維が多く含まれている」と松井氏は言う。この点に「スーパー」が付く理由がある。

大麦そのものも食物繊維が豊富な穀物として知られるが、スーパー大麦は一般的な大麦の2倍の

総食物繊維量と、4倍の難消化性デンプンの量を含むのだ。


 大腸の入口では「フルクタン」という水溶性食物繊維が腸内細菌のエサとなり、その先についても、

β-グルカン、それに難消化性デンプンが、段階的に大腸の奥まで届けられる。

「スーパー大麦がこれほどそれほど腸の奥まで届くとは思っていませんでした。私を含め研究に携わった

多くのみなさんが驚きました」


おむすびやグラノーラで効果的に摂取を

 スーパー大麦を用いたさまざまな加工食品も販売されている。

「理に叶っていると思ったのは、おむすびです」と松井氏は話す。最近、コンビニエンスストアの

棚で見かけるようになった「おむすび」に、「スーパー大麦」と表示されている商品がある。

 

スーパー大麦が使用された商品の例。(左)ご飯と一緒に手軽に炊くことができる玄麦 バブルスター「LOHAStyle スーパー大麦™」。

(右)ケロッグ「オールブラン プレミアム」。


「白いご飯でも、おむすびのように常温のものだと、炊き立てと比較して難消化性デンプンの量が

多くなるのです。スーパー大麦の含有量と合わせて二重の効果があります」


「私自身は、ヨーグルトにグラノーラを入れて食べています」と松井氏は続ける。

グラノーラは、各種穀類やナッツ類などを糖や食物油と混ぜて焼いたもの。「スーパー大麦」と表示

された商品も増えてきている。ヨーグルトにはビフィズス菌、それに乳酸菌といった腸内細菌叢の

主要な細菌が含まれているので、いわば善く働く細菌とそのエサの両方を得ているようなもの。

一般的にこうした組み合わせは「シンバイオティクス」とよばれ、相乗効果が期待されている。


「こうした機能性のある食材は、ブームで終わらず、ぜひ持続的に摂られるものになってほしい」

 美味しいと感じて習慣的に食べ続けているうちに、「前より体の調子がよくなった」と感じる瞬間が

来るかもしれない。あなたと腸内細菌たちは、より良好な関係を築けたということだろう。