モス「海老天ぷらバーガー」は非常識の塊? 通常のハンバーガーとは全く異なる独自進化
モスバーガーは5月24日~7月中旬の期間、限定ライスバーガー2種を販売する
モスバーガーと言えば、注文してから作り始めるため、しばらく待つのが前提のバーガーチェーン。ファストフードであって
ファストでない、不思議な存在のモスバーガーだが、このたび期間限定の新商品を発売した。
「モスライスバーガー海老の天ぷら」「モスライスバーガーよくばり天 海老とかきあげ」を、5月24日~7月中旬の期間、販売する。
実は、1987年、ライスバーガーを日本で初めて発売したのがモスバーガー。焼肉やきんぴら、海鮮かきあげなど、日本の食文化を
生かしたライスバーガーは老若男女に好かれるだけでなく、最近は外国人にも人気が高まっている。
それだけに、わざわざ期間限定で発売する商品には非常に力が入っているようだ。価格も、「海老の天ぷら」が450円、
「海老とかきあげ」が480円と、定番ライスバーガーより高め(モスライスバーガー海鮮かきあげ340円、モスライスバーガー
焼肉390円)。期間内販売に約200万食を目標としている。
「天ぷらの食感」にこだわった
そんな、満を持して発売されるモスライスバーガーは、いったいどこが特別なのだろうか。モスフードサービスが5月16日に開催した
試食会にて詳細を聞いてきた。
モチーフとなったのは、江戸時代に始まるファストフード「天丼」だという。「海老の天ぷら」には海老の天ぷらが2尾、
「よくばり天」と冠した「海老とかきあげ」には、海老の天ぷらと海鮮かきあげが1つずつ挟んである。
こだわりの第一は、天ぷらの食感だ。元日本食の料理人という、モスフードサービスにおいても特異な経歴を持つ商品開発部の
荒木光晴氏は、このたびのこだわりポイントについて次のように語った。
「通常の海老の天ぷらは筋を切って、まっすぐに伸ばしてから揚げます。その筋切りをせず、また背わたも一つひとつ串で
取り除くなど、『海老に優しく』仕上げています」(モスフードサービス商品開発部の荒木光晴氏)
天丼にせよエビフライにせよ、ぴんとまっすぐ天を向いた海老がビジュアルのポイントだ。海老はそのまま熱を加えると
背がギュッと丸まってしまうので、筋切りを行って繊維を切って大きく見せるのが普通。ただ、海老の身にダメージを与え、
特有の弾力を損ねてしまうというデメリットもある。ライスバーガーに挟むのなら、丸まっても問題ないし、むしろ丸いフォルムの
バーガーに収まりやすい。ということで、筋切りせず、海老本来の、弾力のある食感を重視した。
こだわりの2つ目は、一つひとつ手で「花を咲かせるように」揚げていること。天つゆ風のタレに漬けた後もサクサクとした食感が
残るように、とのことだ。また、焼津産かつおぶし粉と日高昆布をベースにした天つゆ風タレにはゆずのさっぱりとした風味を加えた。
「国産のゆずの皮パウダーにより苦みを、果汁によりフレッシュ感と酸味を、ゆずペーストにより"ゆずらしさ、ゆず感"を出しています」(荒木氏)
ランチとして成立しそうな「ボリューム」
このように"手塩にかけた"感のある新モスライスバーガーをそれぞれ、試食してみた。
ライスバーガーというと、小ぶりで厚みもそれほどなく、手のひらに収まるイメージだった。しかし、今回の2商品は具が2段に
重ねてあるだけに、ボリューム感があり、持ち重りがする。モスでいえばチーズバーガーぐらいの厚みがあり、ほうれい線が
深く刻まれるほど口を全開にしても、ライスと具を一度に口内に導くのは容易ではない。
そして、ボリューム感という意味では、丸っこい海老がダブルで挟まっている「海老の天ぷら」のほうがより勝っているようだ。
さすが、筋繊維がダメージを受けていないだけに弾力が強く、跳ね返ってくるようなかみ応えが感じられる。
海老のうま味と、天つゆ風タレの味わいもしっかりとしている。
「海老とかきあげ」は、軽い食感のかきあげによって、より優しくヘルシーみの感じられる味わいになっている。
ライスと海老の味わいを、かきあげがうまくまとめている印象だ。
どちらも揚げ物だが、カラッとしているので、食後感はそれほど重くはない。ほっそりした同社の女性も「2ついっぺんでも、
意外に食べられてしまいます」とのことだ。
しかし、従来のライスバーガーの「小腹がすいたときの軽食」というイメージではなく、しっかりランチとして成立しそうだ。
というのも、実はモスライスバーガーのライスプレート、近年ボリュームアップをしているのだそうだ。
「2015年のミラノ万博で日本館フードコートに出店したのですが、ライスバーガーが非常に好評でした。そのときに提供した
商品を、『モスライスバーガー とりの照り焼き』として、2016年の2月から3月末にかけて、日本で期間限定販売しています。
同時に、ライスプレートをミラノ万博のときと同じサイズ(20%増し)にし、食事性を高めています」(角田氏)
しかし糖質制限が流行している昨今、ご飯を増量したり、ライスバーガーをフィーチャーしても売れないのではと、
ひとごとながら心配になる。しかしモスフードサービスではあくまでも、5大栄養素をバランスよく食べるという、国が推奨する
栄養基準にのっとってメニュー作りを行っているのだそうだ。
「モスの菜摘」は糖質制限ブーム前の発売
たとえば「モスの菜摘」という、バンズをレタスに変更した商品は、糖質制限にぴったりに思えるが、同社によると、
特に意識しているわけではない。そもそも「モスの菜摘」が商品として発売されたのは2004年が最初で、糖質制限ダイエット
ブームよりはずっと前だ。「おいしいモスの生野菜をたっぷり食べてもらえるように」という思いから生まれた商品で、
ヘルシー志向の女性に人気が高まった。
モスの菜摘
また、ライスバーガー自体、米の消費拡大を目指して生まれた商品だった。1987年に「モスライスバーガーつくね」が生まれ、
1992年には、「お米のまったく新しい消費を拡大したことに対して」農林水産大臣賞を受賞しているという。
モスバーガーは"日本で生まれ、日本の味を大切にする"ハンバーガー専門店をうたっており、できるだけ国産の素材を用い、
しょうゆやみそといった日本の食文化を取り入れた商品を提供している。モスライスバーガーは、そんな同社を象徴するような
メニューだと言うことができるだろう。
前述のように、ライスバーガーは海外でも人気で、特に250店以上の出店がある台湾では、むしろライスバーガーがメインだという。
ラインナップも多く、日本で見られないメニューも並ぶそうだ。そのほか海外店舗としてはシンガポール、香港、タイ、インドネシア、
中国、オーストラリア、韓国などに出店している。
なおライスバーガーは2012年、2017年には、JAL欧米豪線の機内食にも"エアモス"として起用されているそうだ。
もっとも最近では、糖質制限を意識したサービスも行っているようだ。それが、「にくにくにくバーガー」。
2017年6月、テレビ番組の企画で作られた商品で、モスライスバーガー焼肉のライスをパティに替え、さらに直火焼チキンと
レタスを挟んだバーガーだ。約2週間で販売20数万食という好評を受け、2017年7月から、毎月29日(および2月9日)を
ニクの日として販売している。
毎月29日限定発売の「にくにくにくバーガー」850円(写真:モスフードサービス)
惜しむらくは、知る人ぞ知るサービスにとどまっている点だろう。モスの特徴が、全国1335店舗中1296店舗がフランチャイズ
(2018年4月末時点)というFC率の高さ。地域密着を重視し、店舗がアイデアを出して開発したご当地バーガーや、
地域の子どもたちに向けた食育など、地域ごとの店舗を拠点としたさまざまな取り組みを行っている。お客との、顔と顔による
コミュニケーションを大切にしているようだ。
今は拡散手段がさまざまに発達しているので、新商品や、「にくにくにくバーガー」などのようなキャッチーなキャンペーンを利
用することで、さらにブランドを広く印象づけることができそうだ。
一部店舗では午前中からビールが飲める
またあまり知られていないといえば、モスでは2017年6月より一部の店舗にて、「モスバル」というアルコール販売の取り組みも
行っている。午前10時30分より、ハンバーガーにとポテトなどと、ドリンクを組み合わせた「通常セット」に、+140円で
ドリンクをビールに変更OK。
また午後3時からは「バルセット」として、好きなハンバーガーに+620円で、ビール(プレミアムモルツ350ml缶)と単品なら
290円のバルメニュー(ポテトやオニオンフライ、ソーセージなど)3種から選べるセットを提供する。都市部の約170店舗ほど
という小規模なものだが、「お客様の選択肢の1つとして」始めたものだそうだ。
ちなみに「ちょい飲みブーム」がその数年前から始まっており、牛丼屋やファストフードチェーンなどはいち早く対応していた。
「以前より一部店舗でアルコールを提供していましたが、このたび、お客様のニーズの高い立地への導入を意識して、
『モスバル』というパッケージとして展開しました。バーガーとビールは相性がいい、という認知が広まり、利用機会の拡大に
つながればと考えています」(角田氏)
ちょい飲みブームやグルメバーガーブーム、アルコールを提供する海外チェーンの上陸で、ハンバーガーにビールという
コンビは日本で定着とはいかないまでも、よく知られるようになってきた。ただ、お腹がいっぱいになってしまうのが難点。
おつまみに最適なサイドメニューが豊富で、満腹になりすぎない「菜摘」といった商品もあるモスなら、ちょい飲みしやすそうだ。
今はこのサービスについてまだ知名度が低く、実施店舗も限られている。コアなモスファンにとっては「モスなのに飲める"穴場"」と
して利用できそうだが、裾野の拡大を目指すならば、「モスバル」の存在についてもっと知られる必要がありそうだ。