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<台湾情報19-12>「台湾は中国の一部」と言い切る郭台銘のヤバさ。「台湾」を中国に売り飛ばすかもしれない中国版トランプ / ハイテク業界激震必至、親中派・郭政権が誕生する日。

2019-05-10 17:55:45 | 台湾 中台・国際関係

「台湾は中国の一部」と言い切る郭台銘のヤバさ

「台湾」を中国に売り飛ばすかもしれない中国版トランプ

2019.5.9(木)   福島 香織:ジャーナリスト

 中国版トランプ、というべきか。台湾の大実業家、郭台銘(テリー・ゴウ)が国民党の

総統候補選びの予備選挙に4月17日に出馬表明をしてから、その動向に注目が集まっている。

独特のカリスマ性に加えて、言うことなすこと大仰で、ついつい目が離せない。

 

 台湾の民意調査では、いまのところ一番総統に近い男。世新大学が17日に発表した民意調査では、

郭台銘と現職総統の蔡英文が一騎打ちになった場合、郭台銘が20ポイントリードして、

郭台銘支持50.2%、蔡英文支持27.1%。蔡英文の代わりに元行政院長の頼清徳が候補に

なったとしても、やはり郭台銘が9ポイントリードしているという。郭台銘は総統選挙のたびに

出馬の噂があり、そのたびに民意調査では、圧倒的な支持率を得ている。


 昨年(2018年)の統一総統選で民進党の牙城・高雄市長の座を奪った韓国瑜もそうだが、

ああいうほら吹きタイプのいかにも強いリーダー風のキャラクターは、台湾では人気が出やすい。

私も郭台銘は出馬すれば勝てるタイプの候補だと思う。だから、彼は危険だ。特に国民党から

出馬すると非常に危険だ。なぜなら彼は真の大中華主義者であり、習近平の親友であり、

そして習近平政権の「中国製造2025」成功の鍵を握る人物だからだ。


 大言壮語の傾向といい、相手を振り回す言動の変化といい、実業家から大統領になった

パターンといい、カリスマ性といい、トランプに非常によく似ているが、トランプの

アイデンティティは完全に白人国家としての米国である。だが、郭台銘には「台湾」に対する

忠誠心はない。大中華主義達成のためなら「台湾」を売り飛ばす可能性だってあるだろう。


中国が育て上げた工作員?

 郭台銘について簡単に説明しておこう。世界最大手の電子機器請負生産(EMS)企業、

鴻海(ホンハイ)精密工業の会長であり、2018年のフォーブス誌が選ぶ長者番付では台湾一の

資産家に返り咲いた大富豪。米アップルのiPhoneの最大サプライヤーとしてもよく知られ、

中国における子会社フォックスコンの工場では中国に100万人の雇用をつくった。

最近はアップルからの受注減もあって、中国の工場も縮小中、最盛期のことを思えば資産は

2割以上目減りしているし、鴻海の事業の勢いも少し落ちているものの、今でも欲しいものは

何でも手に入る大セレブ。

 

 そんな大セレブだから、本当なら台湾総統といっためんどくさいポストに就きたくないだろう。

2016年に出馬の噂がたったときは「一番なりたくない職業は総統」と言い切っていた。

それが「媽祖(中国の航海の守護神)が夢枕に立って2020年の台湾総統選に出馬せよ、

とお告げがあった」として4月17日に出馬表明していた。だとしたら、その媽祖の顔は習近平に

似ていたかもしれない。

 

 というのも郭台銘は「中国が台湾支配のために時間をかけて育て上げた工作員」(米国に

亡命中の元政商・郭文貴の発言)とも囁かれているからだ。


 郭文貴も放言癖があるので、その発言の鵜呑みは要注意だが、確かに郭台銘と中国共産党との

付き合いは深い。1988年に中国に進出、2001年以来、鴻海傘下のフォックスコン深セン工場に

共産党委員会が設置されて以来、すべての中国内グループ会社に党支部があることは周知の

事実だ。さらに昨年はフォックスコン党校まで作って、自らの企業で共産党エリートを育てる

方針を打ち出した。


 歴代指導者との関係も深く、習近平からは「老朋友(親友)」と呼ばれている。工場では

連続自殺事件や、暴動といった問題を何度も起こしているが、共産党の介入で丸く収めてきた。

郭台銘は2013年11月5日の両岸企業家紫金山サミットの会場で、習近平の「中華民族の偉大なる復興」

という「中国の夢」について、その話を聞いたとき「血が沸き立った」と絶賛して語るほど

習近平の新時代思想に傾倒している、らしい。

 

 そもそも郭台銘の出馬表明は当然社内の党委員会を通じて、党中央が了承しているはずである。

また2014年のひまわり学生運動のときは「民主主義で飯が食えるか」「民主主義はGDPに

何の役にもたたない」と発言して学生運動を完全否定したことがある。


 中国は当初、韓国瑜を国民党総統候補の本命とみて賢明に根回していたフシがある。

だが、韓国瑜は4月の訪米中に「国防は米国に頼り、科学技術は日本に頼り、市場は大陸に頼る」

と公言。この発言に、習近平が韓国瑜を見限った、という噂がある。


「台湾は中国と不可分の一部だ」

 年初からの台湾に対する恫喝の様子をみるに、習近平は自分が総書記の座にある間に台湾の

統一を実現すると決意しており、次の選挙で国民党が政権をとったら「和平協議」、民進党が

とったら「武力統一」といった踏み絵を台湾有権者に踏ませるつもりでいるようだ。国民党主席の

呉敦儀はすでに、次に政権をとったら「和平協議」の方針を表明している。民進党の総統候補に

なるかもしれない現職の蔡英文は「和平協議」は受け入れないとしている。つまり国民党が勝てば

「和平協議」。民進党が勝てば「武力統一」と、中国は迫りたいのだ。

 

 だが、国民党が政権をとり「和平協議」に進んでも、「国防は米国」という韓国瑜が総統で

あれば、これは中国の望む「和平協議」の形にはならない。中国としては、和平協議の着地点は

中台統一以外になく、中台統一は共産党政権の指導のもとの一国二制度しかありえないので、

台湾が国防で解放軍と敵対する米軍と組むことは絶対に許せない。郭台銘は日ごろから、

中国との平和安定的関係が一番の国防策だと言っている。そこで、中国の意にそってくれる

郭台銘というカードをここで切ろう、ということになったのではないか。

 

 彼は5月1日に、トランプと会談しているのだが、その時、中華民国の旗である「晴天白日旗」の

ついたキャップを被り、同じものをトランプにプレゼントしたそうだ。「私が総統になったら

中華民国の総統として訪米する」などと会談後、記者たちに語っている。そして、中国の報道が、

彼の帽子の「青天白日旗」にモザイクをかける、として、大陸・中国への不満を語ってみせた。


米国・ワシントンのホワイトハウス前で、米大統領のサインがデザインされた品々を披露する鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)会長(2019年5月2日撮影)。(c)CNA / AFP〔AFPBB News

 

 だが、彼は中華民国と中国が別の国だ、と米国に向かってアピールしているように見えて、

実のところ両岸統一支持者なのだ

 

 その証拠に訪米から台湾に戻る飛行機の中で随行の記者たちに「台湾は中国と不可分の一部だ。

その強調すべき意味は、両岸は同じ中華民族だということだ」と語っている。

彼の場合は、中国への不満を言って見せることも、中国から許されているくらい信用されている、

と見るべきだ。

 

 トランプは台湾を中国に統一させないために台湾旅行法はじめ、数々の手を打っている。

台湾は米国のアジア戦略における要であり、台湾が中国に統一されてしまったら、米国のアジア

戦略自体が根底から崩れてしまう。郭台銘は自分が出馬するとなれば、米国が妨害しかねない

と見て、トランプの警戒を解こうという目的で、中国と違う国としての「中華民国」を

アピールして見せたのだろう。

 

 だが、今現在、中華民国憲法が定めるような「中華民国」というものはフィクションの世界に

しか存在しない。あるのは「台湾」という島を中心にした島嶼国で、中国とは完全に違う国である。

郭台銘が言う「中華民国と中国は(概念上)違う国だ」というのと、普通の台湾人が

「台湾と中国は(現実の国境線で区切られた)違う国なのだ」というのと、実はかなり意味が

違うのだ。トランプにそれが伝わっただろうか。

 

 ホワイトハウスの広報によれば、この会談でトランプは、郭台銘の出馬に対しては特に支持も

不支持も言わなかった。ただ、トランプと会って話せる郭台銘、というブランドを台湾有権者に

アピールする意味は大きかっただろう。

 

 郭台銘と中国共産党の利益供与関係は、さらに「中国製造2025」の成功、ひいては米中の

5G覇権、次世代通信覇権争いを左右する。鴻海・シャープが珠海に建設する半導体工場は、

直径300ミリシリコンウェハーを使う最新鋭工場。建設費用1兆円規模で、珠海市が半分以上

負担する。中国が米国との新冷戦構造で必ず克服しなければいけない「半導体の完全国産」は

郭台銘率いる鴻海集団が買収したシャープが鍵を握る、かもしれないわけだ。

 

独立か統一か、台湾人の心の内は?

 ここまで中国共産党と密接な郭台銘が総統選に出馬して、台湾有権者が彼を選ぶということが

あるのか、と思う方もあろう。

 

 だが、最近の民意調査を見てみよう。聯合報4月9日付けで、台湾生まれの米デューク大学教授、

牛銘実が行った台湾民意調査結果が報じられている。

それによると、「台湾が独立を宣言すれば大陸(中国)の武力侵攻を引き起こすが、あなたは

それでも台湾独立に賛成するか?」という質問には、賛成は18.1%、非常に賛成は11.7%と

合わせても3割に満たなかった。一方、「大陸が台湾を攻めてこないならば、あなたは独立宣言に

賛成か?」という質問には賛成が25.9%、非常に賛成が36.1%と、62%が賛成。


 台湾と大陸の未来について、両岸統一が比較的可能か、独立が比較的可能か、どちらだと

思うかという問いには、48.1%が独立より統一の方が可能と答え、29.6%が独立の方が可能と答え、

回答拒否が22.2%あった。


 牛銘実の分析では、台湾人はコストの概念が強く現実主義で、独立はしたいが、戦争という

高いコストがかかるようなら、独立か統一かという二者択一を迫られた場合は統一を選ぶという

傾向があるという。習近平政権が本気の戦争モードで圧力をかけながら、統一か戦争かを迫り、

現状維持という選択肢を許さないようであれば、世論は統一に傾く可能性があるということだ。


 また郭台銘はあまりにも親中的だが、晴天白日旗の帽子をかぶってホワイトハウスに訪問する

パフォーマンスもでき、日本の大企業も買収しており、世界各国にパイプを持つ。

民主主義と衆愚政治は紙一重、そういう表面の魅力に一票を入れてしまう有権者は多いだろう。


 さて、日本にとっては、国家安全保障上も台湾に対する心情からしても、今度の選挙は民進党に

勝利してもらい、民主主義国家の体を維持してほしい。だが、民進党の人気のなさよ。


 もっともこの台湾の総選挙の本質も米中新冷戦構造の代理戦争だと考えれば、米国の今後の

出方によって世論も候補も変わってくる可能性は大いにある。日本としてできることは、

台湾が直面している不安や恐れを少しでも和らげられる国際環境のために尽力することだろう。


ハイテク業界激震必至、親中派・郭政権が誕生する日

ファーウェイ問題に続いて吹き荒れる“台風2号”

台湾・台北の街並み

  台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の郭台銘CEOが4月17日、台湾総統選への出馬を決めた。

平成最後のこの大ニュースに、筆者は腰を抜かすほど驚いた。

 

 ホンハイは、100万人を超える従業員を擁する中国の巨大工場群で、世界のPC、スマホ、

各種デジタル機器の委託製造(EMS)を行っている。これら電子機器の約9割を組立てている

ことにより、「世界の工場」と呼ばれている。ホンハイは、郭氏が1974年に創業し、1代で

売上高19兆円の巨大企業に成長させた。郭CEOは、100万人超の頂点に君臨する独裁者として

知られている。

 

 台湾総裁選で郭氏は、中国との融和を掲げる国民党の予備選を経て、2020年1月に総統選に

望むことになる。台湾で行われた世論調査では、中国からの独立を目指している民進党現総統の

蔡英文氏との一騎打ちになった場合、郭氏が50.2%、蔡氏が27.1%と、郭氏が断然優勢の

結果となったという(日本経済新聞、4月19日)。

 

 しかし、もし郭氏が台湾総統に就任した場合、激化している米中ハイテク戦争に大きな影響が

出るだろう。米国が「国防権限法」により世界中から排除しようとしている中国ファーウェイが

台風1号とすれば、台湾総統になった郭政権は、もっと強力で大きな台風2号となる可能性が高い。

 

 本稿では、まず、米中ハイテク戦争と、台風1号および2号の複雑な関係を整理する。

その上で、本当に台風2号が発生した場合、つまり、台湾に親中国の郭政権が誕生した場合、

米中台にどのような影響が出るかを考察する。正確な予測は困難だが、その“被害”は甚大で

あるように思われる。

 米中ハイテク戦争と台風1号&2号の関係

 非常に複雑な米中ハイテク戦争と台風1号および2号(現在はまだ熱帯低気圧)の関係を、

図1を用いて、(1)から(8)の順に説明する。

図1 米中ハイテク戦争と台風1号&2号

(1)米中ハイテク戦争

 現在、米中が激しいハイテク戦争を行っている。中国は、習近平国家主席が2015年5月に、

製造強国を目指す「中国製造2025」を政策として掲げた。そして、2017年6月28日に、

約14億人の中国国民および中国国籍の企業などに、合法的にスパイ行為を命じることができる法律

「国家情報法」を制定した。

 米国は、「中国製造2025」と「国家情報法」を警戒しており、中国に様々な圧力をかけている。

例えば、米商務省は2018年4月16日、イランなどへの不正輸出の容疑により、中国国営の

スマホメーカーZTEに対して、インテルやクアルコムの半導体の輸出を7年間禁止する決定を下した。

その結果、ZTEは操業停止に追い込まれた。

  また、台湾UMCと技術提携して最先端DRAMの開発を行っていたJHICCに対して、米商務省が

2018年10月29日、米半導体製造装置の輸出を禁じた。また、米政府が台湾政府経由で圧力を

かけたため、UMCの約300人の開発チームは解散し、約140人の配置転換を行った。

その結果、JHICCのDRAM開発と製造は完全に頓挫してしまった。


(2)米国による中国ファーウェイへの攻撃

 2018年12月1日に、中国ファーウェイの孟晩舟・副会長兼CFOが、米国の要請により、

カナダのバンクーバーで逮捕された。米中ハイテク戦争を中心とする世界エレクトロニクス業界に、

ファーウェイという“台風1号”が発生した瞬間である。

 その後、米国司法省は1月28日、ファーウェイと孟副会長を、イランとの違法な金融取引に

関わった罪および米通信会社から企業秘密を盗んだ罪で起訴した(日経新聞、1月29日)。

 そして、米国は、2018年8月13日にトランプ大統領が署名して成立した法律「国防権限法2019」

により、ファーウェイなど中国企業5社を世界中から排除しようとしている。

今年(2019年)8月13日以降、ファーウェイなど中国企業5社は、米政府機関と一切の取引が

できなくなる。また、2020年8月13日以降、ファーウェイなど中国企業5社を社内で使用している

世界中全ての企業は、米政府機関との取引が一切できなくなる

(筆者注:その対処法について緊急セミナーを開催します。文末の『お知らせ』をご覧ください)。

 

 米国が、なぜこれほどファーウェイに対して激しい攻撃を行うのか? それは、ファーウェイが

世界の通信基地局の売上高でトップシェアを占めているからである。2017年は27.9%で1位、

2018年は26.0%で2位だった(IHSマークイット調べ)。と言っても、ファーウェイ製の基地局は

エリクソンやノキアなど欧州製より価格が安いため、出荷台数で世界シェア約50%を占めている

可能性がある。

  世界は、まさにビッグデータの時代を迎えている。そのデータは、必ず、通信基地局を経由して

やり取りされる。その基地局を、ファーウェイが制している。

そして、中国が、「国家情報法」により、「米国の企業秘密を盗め」と命じたら、ファーウェイは

拒否することができない。

  以上のような危険性があるため、米国は、「国防権限法2019」により、世界中から

ファーウェイを排除しようとしているわけだ。

 これに対して、ファーウェイは3月7日、「国防権限法」が「公正な競争への参加を妨げ、

米消費者の利益を害する」と主張し、米憲法違反だとして、テキサス州の裁判所で米政府を

提訴した(日経新聞、3月7日)。

 

(3)習近平とファーウェイ任正非CEOの確執

 ファーウェイは中国政府の手先として、米国企業の秘密情報を盗んでいたのだろうか? 

あるいは、これから盗もうとしているのだろうか?

 中国事情に詳しい東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉先生によれば、中国の習近平

国家主席とファーウェイの任正非CEOは、以下のような確執があるという。

 ファーウェイは、その傘下のハイシリコンというファブレスが、アップルのiPhone用

プロセッサに匹敵するほど高性能な半導体を設計している。習近平は、この高性能半導体を、

中国国営企業のZTEなどに外販するように圧力をかけているが、ファーウェイの任正非CEOは、

これに反発し、一切応じていないという。

(参考「Huaweiの任正非とアリババの馬雲の運命:中共一党支配下で生き残る術は?」)

 さらに、遠藤先生によれば、“ファーウェイを米国に売ったのは中国国営企業のZTEである”という。

(参考「華為Huaweiを米国に売ったのはZTEか?――中国ハイテク『30年内紛』」)


おそらく、ZTEを陰で操っているのは習近平であり、“助けてほしくばひざまずけ”とでも言って

いるのではないだろうか。

 

(4)台風2号になりそうなホンハイの郭CEO

 これまで見てきたように、米国、中国、および台風1号のファーウェイの3者が睨みあっている。

そこに、台湾総統選に出馬を表明したホンハイの郭CEOと言う“熱帯低気圧”が発生した。

 ホンハイは、冒頭で述べた通り、100万人を超える従業員を擁する中国の巨大工場群で、

世界のPC、スマホ、各種デジタル機器の委託製造を行っている。中国が「世界の工場」と

言われるようになったのは、ホンハイの成長に大きく依存している。

  そのため、郭CEOは、習近平国家主席と特別な関係を築いている模様である。郭CEOが、

親中国派の民進党から出馬するのも、うなずける話である。

  ホンハイは台湾籍の企業でありながら、100万人超の従業員、大工場群、19兆円もの売上高、

これらほとんどが中国に偏重しており、郭CEOと習近平は親密な間柄である。その郭氏が、

米中ハイテク戦争の真っ只中に、台湾総統になる可能性が高い。それは、強力な台風2号となる。

 

(5)米国のホンハイへの依存関係

 ホンハイの主要な顧客は米国であり、アップルのiPhone、デルやヒューレット・パッカード(HP)

のPCやサーバーの委託製造を行っている。特に、アップルのビジネスは巨大で、ホンハイの売上高の

約50%を占めると言われている。

  また、トランプ氏が大統領に就任して間もない2017年7月、郭CEOが面会し、米国の

ウィスコンシン州に、傘下のシャープと共同で100億ドル規模の液晶パネル工場を建設すると

発表した。数万人規模の雇用が見込まれると、トランプ大統領も絶賛している。

 要するに、米国のエレクトロニクス産業は、ホンハイに大きく依存しており、習近平と特別な

関係にある郭CEOは、トランプ大統領とも、親交を深めようとしている。

 

(6)ファーウェイも台湾に依存している

  台風1号のファーウェイも、台湾企業に大きく依存している。まず、ファーウェイ傘下の

ハイシリコンが設計した半導体は、世界最大のファウンドリーである台湾TSMCが最先端の7nm

(ナノメートル)プロセスで製造している。中国のファウンドリーのSMICは、いまだ20nm程度の

プロセスでしか製造できないため、ファーウェイは、最先端の半導体製造をTSMCに頼らざるを

得ない。

  さらに、その最先端の半導体を搭載したファーウェイ製のスマホは、おそらく、ホンハイの

中国工場で組み立てられている。このようなサプライチェーンのもとで、ファーウェイ製の

スマホの出荷台数は、中国シェア第1位となり、世界シェアでも第2位のアップルに肉薄し、

第1位のサムスン電子をも射程圏内に捉えている(図2)。


図2 スマホの企業別出荷台数(四半期ごと)(出所:IDC)

 

(7)米国ファブレスのTSMC依存

 ファーウェイ向けの最先端半導体だけでなく、米国のファブレスが設計した半導体のほとんどを、

台湾のTSMCが製造している。例えば、5G用通信半導体でファーウェイと大接戦を演じている

クアルコム、自動運転車用AI半導体で一躍注目されているNVIDIA、通信用半導体のもう1つの

巨人のブロードコムなどである。

 ファウンドリーの分野では、TSMCが圧倒的な存在を誇る。図3は、ファウンドリーの

世界トップ5の売上高を示したグラフであるが、TSMCの存在感が図抜けており、他社の成長が

止まって見えるほどである。もはや、米国のファブレス(否、世界に数千社あるファブレス)は、

TSMCなしに、半導体ビジネスが成立しない状態であると言えよう。


図3 ファウンドリートップ5社の売上高。(出所:IC Insightsのデータを基に筆者作成)


 

(8)ホンハイの郭CEOとTSMC創業者の張忠謀の関係

  半導体製造のインフラになったTSMCは、1987年に張忠謀(モリス・チャン)が設立した。

チャン氏は、世界の半導体業界に、ファブレス─ファウンドリーという新しいビジネスモデルを

確立した。その上で、TSMCを圧倒的に強力なファウンドリーに成長させた。87歳となった

チャン氏は、TSMCの会長職に退き、CEOを劉徳音らの後進に委ねているが、その存在感は今も

色あせることは無い。

  そのチャン氏と、ホンハイの郭CEOとは、盟友の関係にあると聞いた。ファウンドリーと

EMSは分野こそ違えど、役割は黒子であり、いずれも台湾を代表する世界的な企業である。

その創業者が、親しいのは当然かもしれない。

 

もし、台風2号が発生したら?

 やっと、米国、中国、ファーウェイ、ホンハイ、TSMCの複雑に絡まりあった関係を解き

ほぐすことができた(読む方も大変かもしれないが、書く方も大変なのだ)。

  このような複雑な状況の中で、ホンハイの郭CEOが、台湾総統選に出馬しようとしている。

現在は、中国と一線を画す民進党の蔡英文氏が政権を担っている。しかし、親中国の国民党を

与党とする郭政権が誕生すれば、(1)~(8)で見てきた世界のパワーバランスが大きく崩れる

可能性がある。

  おそらく、これまでは、世界のエレクトロニクス産業において、台湾の存在は親米国だったと思う。

しかし、習近平と特別な関係にある郭氏が台湾総統になると、米国をはじめとする世界が、

“台湾は中国の一部である”と見做す可能性が高い。その結果、郭政権は、強力で巨大な台風2号に

なるだろう。

 

 既に、郭CEOが出馬を表明した同日、米ウィスコンシン州のエバーズ知事が液晶工場への

優遇策などの支援を見直すと述べている(日経新聞、4月19日)。また、郭氏が台湾総統になった

場合、アップルなどの米企業が、ホンハイとEMSで競合する台湾ペガトロンに委託先を

変えるという観測も浮上している(前掲の日経新聞)。

  もし、そんなことが起きれば、「世界の工場」であるホンハイの経営基盤が大きく崩れることに

なる。


TSMCはどうする?

 中国は、「中国製造2025」によって、半導体産業を強化しようとしている。しかし、

優秀な半導体技術者が足りないため、言葉の壁がない多くの台湾人を高額な年俸で引き抜いている。

ファウンドリーで世界1位のTSMCからは、工場一つ丸ごと運営できなくなるほどの半導体技術者が

中国に渡ったと聞いている。


 これを問題視した民進党の蔡総統は、半導体技術者が中国に渡ることを禁じている模様である。

ところが、習近平と懇意な郭氏が台湾総統になったら、台湾の半導体メーカーに、「もっと中国に

協力せよ」というような、真逆の政策を掲げるかもしれない。習近平も、郭政権にそう依頼する

だろう。

 そして、郭氏と盟友の関係にあるTSMCのチャン会長に協力を要請する可能性がある。

その場合、チャン会長は、その要請を断れない(断らない)かもしれない。


米国のジレンマと台風2号の“被害”

 中国と激しいハイテク戦争を行っている米国は、台湾のTSMCが中国の半導体産業に協力

することを断じて許さないだろう。しかし、米国がTSMCに圧力をかけた結果、もしTSMCが

「米国のファブレスの半導体なんか製造してやらないぞ」とヘソを曲げたら、米国の半導体産業が

成り立たなくなる。さらに、そのような米国の圧力があったら、ホンハイも、「米企業のスマホや

PCはつくってやらない」と言いだすかもしれない。ホンハイ自身も窮地に陥るかもしれないが、

アップルなどの米企業も困り果てることになる

 これは、米国が抱えているジレンマである。

 米国、中国、台湾、ファーウェイ、ホンハイ、そして、TSMC。世界の半導体産業や

エレクトロニクス産業は、複雑に絡まりあっている。現時点で“熱帯低気圧”であるが、

本当に郭政権が誕生し、台風2号となったら、どれほどの“被害”が出るか、筆者には予測できない。

しかしそれは、“激甚災害”になる可能性が高いと思われる。


◎筆者からのお知らせ

 台風1号のファーウェイと新たに発生した台風2号のホンハイの郭台銘により、米中ハイテク戦争は、いよいよ混迷し、その被害は計り知れません。そして、中国の「国家情報法」と米国の「国防権限法2019」への対処は、待ったなしの状況となりました。
 その状況をクリアにし、対策を共有するため、5月22日に緊急セミナー「米中ハイテク戦争とメモリ不況を生き抜くビジネスの羅針盤」を開催することとなりました。特に解釈が難しい米国の「国防権限法」を詳しく解説し、対処の方法を論じる予定です。新聞等のマスメデイアが、なぜ「国防権限法」をもっと取り上げないのか、不思議に思うとともに、危機感を感じます。2020年の東京五輪直後に、みなさんの会社が窮地に陥ることが無いよう、対策を講じるための一助になることを願っています。
・セミナーの詳細はこちらです(受講料が半額になる「講師紹介割引」もありますのでご利用ください)。


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