インドネシア津波、死者420人超に 火山活動続き新たな津波の恐れも
2018年12月25日 BBC
インドネシア津波、次の波が来るまでに逃げ出した 生存者の証言
インドネシア西部のスンダ海峡で22日に発生した津波で、インドネシア国家防災庁は25日、死者数が
少なくとも429人に達したと発表した。
インドネシア政府によると、約150人がまだ行方不明で、1万6000人以上が家を失った。
スマトラ島やジャワ島の海岸を襲った津波は、火山島アナククラカタウの火山活動によって海底で起きた
地滑りが原因と考えられている。
スマトラ島とジャワ島の間にあるスンダ海峡に位置するアナククラカタウ島は、23日にも噴火。
火山灰や煙が噴出した。
噴火の影響で被災地の道路は封鎖され、救出活動は進んでいないが、甚大な被害を受けた地域には被害者の
捜索支援のため重機が運ばれている。
警報発令
ヌグロホ報道官は記者会見で、アナククラカタウ島の火山噴火が続いているため、新たな津波の可能性が
あると話した。
「海辺での活動を控え、海岸からしばらく離れているよう、インドネシア気象気候地球物理庁が勧告している」
とヌグロホ報道官は述べた。
噴火するアナククラカタウ島の衛星写真(今年8月)
1927年にクラカタウ島の噴火で形成されたアナククラカタウ島ではここ数カ月、火山活動の活発化が
観測されており、火口付近への立入禁止命令も出ていた。
ヌグロホ報道官は24日、今回の津波で事前に警報が出なかった理由をツイッターに連続投稿した。
ヌグロホ氏によると、インドネシアの早期警報は地震観測のため設置されたもので、地震と同様に大津波を
発生させる原因になり得る海底での地滑りや火山噴火には反応しないという。
ただしヌグロホ氏は、世界の火山の13%がインドネシアに集中しているとして、火山活動を観測できる
システムの開発が極めて重要だと付け加えた。
被害が起きた夜に、津波の事前警告システムが機能していなかったことをヌグロホ報道官は認めた。
資金不足、観測ブイへの破壊行為、そして技術的故障のため、津波警告システムは2012年以来作動して
いないという。
2012年の研究でアナククラカタウ島の噴火とそれに伴う津波を予測していた地質学者の
ラファエル・パリス氏は、「この火山円錐丘が安定しているのか今は非常に不確かだ。今後も噴火や津波が
起きる確率は無視できない」と話した。
被害拡大の理由
津波は現地時間22日午後9時30分(日本時間同日午後11時30分)ごろに被害地域を襲った。この日の
現地は休日で、地震警報もほとんど出なかったもよう。
地震に伴う津波発生時に多く見られる海面の低下が、今回は観測されなかった。火山近くに観測ブイが
あったとしても、警報を出せる時間は限られていただろうと、専門家は語っている。
津波が襲った時、ジャワ島西端のタンジュンレスンでは、インドネシアの人気バンド「セヴンティーン」が演奏中だった
津波のため観光客に人気の複数行楽地で建物数百棟が損害を受けたほか、自動車が押し流され、
樹木も根こそぎ流された。被害地域の中には、ジャワ島西部のビーチリゾート、タンジュンレスンもあった。
タンジュンレスンでは津波当時、インドネシアの人気ロックバンド「セヴンティーン」がライブ演奏中だった。
ソーシャルメディアで拡散している動画には、ライブが行われていたテントに津波が押し寄せる様子が
映されている。
津波によりステージも破壊され、「セヴンティーン」はリードボーカルを除くバンドメンバーが死亡
あるいは行方不明となった。
噴火したアナククラカタウ島は、スマトラ島とジャワ島の間にあるスンダ海峡に位置する
インドネシアの津波被害は過去にも
津波の被害を受け、パンデグラン県に住む人の一部は地元のモスク(イスラム教礼拝所)に避難した
環太平洋全域のほとんどを円形につなぐ、地震や火山噴火の頻発地域「炎の輪」に位置するため、
インドネシアでは津波が多い。
今年9月には、インドネシア中部スラウェシ島の近海で大地震が発生。地震で発生した津波は
湾岸都市パルを襲い、2000人以上が死亡した。
インド洋で2004年12月26日に発生した大地震でも、大規模な津波が何度も発生した。13カ国で死者約
22万8000人が出たが、被害のほとんどはインドネシアで起きた。
ただし、今回のような火山活動が原因とみられる津波は、比較的頻度が少ない。
旧クラカタウ島では1883年に大噴火が
今回噴火したアナククラカタウ島の位置にはかつて、クラカタウ島という火山島が存在したが、19世紀に
噴火で大部分が消失した。1883年8月にあった旧クラカタウ島の噴火は、記録されている中で最も暴力的な
噴火の1つだった――。
- 最高で高さ41メートルの巨大な津波が発生。3万人以上の死者が出た
- 噴出された高熱の火山灰でも数千人が死亡した
- 噴火は、爆薬のトリニトロトルエン(TNT)200メガトンが爆発した規模に相当するという。1945年、日本の広島に投下された核爆弾の約1万3000倍にあたる
- 噴火音は数千キロ離れた場所でも聞かれたという
- 爆発後の1年で、世界の平均気温は摂氏1度以上低下した
- この噴火でクラカタウ島はほとんど消滅した。その後、1927年の噴火により、アナククラカタウ島が誕生した
<解説>何が津波を引き起こしたのか――ジョナサン・エイモスBBC科学担当編集委員
100年近く前に海上へ姿を現した火山島アナククラカタウのことは、この地域の住民なら誰もが認識して
いたはずだ。しかし現地の専門家は、アナククラカタウの地鳴りや噴火は相対的に小規模で、断続的だと
説明する。
言い換えれば、この島は常に背景にあったのだ。
火山により岩や堆積物が海へ滑落したのが津波発生の原因とされる
ただそれでも、火山が大波を引き起こすことは良く知られている。噴火によって、大量の水が移動するのだ。
22日の津波発生後、最初に撮影された衛星写真は、アナククラカタウ西南西の山腹崩壊を強く示している。
この崩壊により数百万トンの岩くずが海に落下し、全方位に波が押し出されたとみられる。
- エイモス編集委員の解説全文はこちら(英語)
(英語記事 Indonesia tsunami: Fears of new wave as Anak Krakatau volcano seethes)