在日クルド人ヘイトクライム抗議デモに在日クルド協会が関与否定の異例声明…「偏見助長」
2020.06.15 18:20 Business Journal
日本クルド文化協会Facebook公式アカウントより
5月30日、警察によるヘイトクライム(差別に基づく犯罪)に抗議するデモが警視庁
渋谷署周辺で行われた。米国でのヘイトクライムに抗議するデモの様子が連日、日本で
報道されていただけに波紋を広げている。
事の発端は、東京都渋谷区の路上で在日クルド人の男性(33)が「警視庁の警察官に
不当に職務質問され、暴力を振るわれた」と主張したことだった。毎日新聞や共同通信
などはこれをヘイトクライムとして、デモの模様と合わせて詳報した。ところが今月
13日、在日クルド人を支援している一般社団法人日本クルド文化協会が同デモの主張に
関して否定的な見解を示した。同協会関係者は「そもそもこの件に関して、
大手マスコミからまったく取材もなく、結果として一連の報道で日本国内にいるクルド人
への偏見を助長している」と危惧する。
「正当な理由のないデモは偏見を助長する」
文化協会はFacebookの公式アカウントで以下のような声明を発表した。
「日本政府、国会、警察庁、及び関係各所各位, 日本国民の皆様へ
この度先月30日の渋谷警察署前におけるクルド人のデモに関する当協会としての見解を発表いたします。関係各所へ事実確認に時間がかかり大変遅くなってしまいました。まず、当協会はデモを支持する立場ではなく、いかなる関与もしていないことを明確に申し上げます。
今回の騒動の発端になったクルド人の行為は、日本の法律・慣習に照らし合わせて、擁護する余地はありません。もし彼が交通規則を守り警察の要請に適切に対応していれば、警察官もあのような対応に出たのか疑問があります。当協会はトルコ、イラン、イラク、シリア政府のクルド人弾圧への抗議運動を度々主催しておりますが、参加者はクルド人が大多数で、一部支持者の日本人が含まれるという構図になっております。
今回の渋谷警察署前でのデモは日本人参加者が大多数を占めていましたが、普段クルド人の支援活動には参加されていない方々ばかりであったと確認しております。今回のような正当な理由があるとは言い難いデモはかえって在日クルド人への偏見を助長したように思われます。
在日クルド人は日本の法律・慣習を尊重いたします。当協会はこれからもクルド人が日本社会で軋轢を起こすことがないよう指導して参ります。一部の方々が今回の件に際してクルド人に関する誤った情報を拡散していますが、こちらについても控えていただきますようお願いいたします。
残念ながら、今回の件に関して、日本のメディアや学術機関、その他組織から、クルド人コミュニティとしての見解について取材がありませんでしたが、ここに当協会としての見解を表明いたします。日本クルド文化協会」(原文ママ)
在日クルド人組織を無視する日本のマスコミ
同協会は在日クルド人組織として最も組織化されている団体だ。その団体にメディアが
取材をしていないということはどういうことなのか。クルド人でつくる日本クルド文化協会
の母体であり、日本クルド友好議員連盟の事務局も務める一般社団法人日本クルド友好協会
事務局の担当者は次のように語る。
「警察の職務質問はクルド人でなくても、日本人も受けます。今回、クルド人の男性が
法律違反を犯したことは紛れもない事実です。
文化協会も友好協会も、ともに在日クルド人に日本国内のルールを守るよう指導して
きました。郷に入っては郷に従えというのは国際社会の常識です。クルド人は残念ながら
出身国でさまざまな抑圧を受けていたこともあり、高等教育を受けていない人も多いので、
日本の法律に触れないように行動することや、『ゴミを路上に捨てない』『夜中に大騒ぎ
をしない』など社会的なルールを教えてきました。政治的な弾圧から逃れてきて、
民族自決のために支援を受ける立場だからこそ、この国の人々から信頼を得なければ
なりません。
クルド人は大きく分けてトルコ、シリア、イラク、イランに広く分布している、
“国家を持たない世界最大の民族”です。それぞれの出身国で政治の状況が異なるので、
クルド人同士のイデオロギーの対立もあります。そうした対立を超えて、しっかりとした
コミュニティをつくる必要があります。
日本の入管のクルド難民の取り扱いなどに関して問題がないとは言えません。
ただ政府がやるべきことと、自治体や警察がやるべきことは違うと思っています。
今回、この声明を発表したことでデモの主催者団体からは、『協会がクルド人に
無理やり声明を書かせた』とのクレームがきましたが、これは日本にいるクルド人の
率直な思いです。
今回、日本の大手マスコミは一社として取材にきていません。正直、異様だと思います。
今週、CNNが取材をするという連絡を頂いていますが、非常に残念です」
一般的に人種差別や民族差別などのヘイトクライムが疑われる事案が発生した際、
当人やその支援者だけでなく、在外公館や民族を代表する組織などに取材をして複数の
見解を紹介するのが取材時のマナーだ。警察官が不当な暴力を振るうことは許されない。
だからこそ今回の事案がヘイトクライムだったのか、そうではなかったのか、また偏見を
助長しているものはなにかも含め、多角的な検証が必要だろう。