名優ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンの共演した懐かしい名画「カサブランカ」は、1942年の製作である。
この中でテーマ曲のように用いられているポピュラーソング「時の過ぎゆくまま」は、実は1931年にほかのミュージカルの中で歌われたものである。
その大意は「時は移ろいすぎゆくとしても、人が愛に生き愛に死ぬというくりかえされる物語は不変である」といったもの。
だが、本来のミュージカルの中では、この曲の前にバースとよばれるプロローグのような語りの部分が歌われる。
このバースの部分は、1931年から半世紀以上を経た今日でも、現在の私たちの状況とあまりにも合致するので、拙訳ながらご紹介してみたい。
曰く「私たちの生きている時代は、スピードや新しい発見あるいはいままでにない方向性をもった出来事などがひきおこす憂慮や不安でいっぱい。
おまけにアインシュタインの原理なんてものまであらわれて、頭の中はもうぐちゃぐちゃ。
だから私たちは祈りを見て大地に横たわってリラックスして緊張を解き放たなくては。
たとえどんな進歩や改革がもたらされようと、人生の真実なるものは単純かつ動かしようもないのだから」といったものである。
まさにこれは今日を予見したストレスマネジメントのすすめそのものであることに驚かされる。
私たちの体は、とかく得体の知れないもの、新しい(もしくは未知の)情報に遭遇したり、めまぐるしく変化する事態に巻き込まれると、これに対応するべく身体機能を活性化するようなホルモン系がはたらいて血圧が上がったり、四肢に思わず力が入ったり、胃腸のはたらきが鈍るなど様々な反応を示す。
非常事態が去ると、体はもとのゆったりしたおだやかなリズムを取り戻し、緊張のために消費したエネルギーを回復したり修復したりするが、休むいとまもない恒常的な緊張状態が続くと、高血圧症や虚血性心疾患、十二指腸潰瘍などといった厄介な成人病をひきおこすのである。
このため、私たちにはときに意図的に、わざわざ緊張をゆるめる手だてをとることが必要になってきた。
前出の歌のバースの部分にあるように、大地に身を横たえてリラックスするのも一方法である。
平坦な芝生の上あるいは板の間や畳の上がよいだろう。
仰向けに「大の字」に寝てみる。
目を閉じてゆっくりと息を吐く。
息を吐きながら意識をお臍の真後ろにあたる脊椎のあたりに向ける。
脊椎はこのあたりで前湾(前方に湾曲)しているはずであるから、からだの緊張の強い間は当然この部分の背中と地面との間には隙間ができる。
ゆっくりと息を吐きながら体のすみずみの緊張を解き、身も心も和らいでいくと、いつしかお臍のうしろの背が地面に接地するのを感ずることができる。
ぜひ試してごらんあれ。
なかなかできないからといってムキになると逆効果、大地に身をゆだねる気持ちが大切。