顔には様々の表情筋や咬筋などが複雑に配置されていて、それぞれの機能を果たしている。
しかもそれらはほとんど四六時中休む間もなく共働して緊張しつづけ、あなたのためにあなたらしい上品さ、マジメさ、優しさ、温かさ、憂い、ときには腹立たしさといった表情を微妙に作りつづけていて、リラックスする間もない。
わずかにリラックスするのはやっと安らかな眠りについたときだけである。
昔の母親が、稼ぎゆく娘に「主人より早く目をさまして、寝顔は決して見せないように」とさとして聞かせたのは訳がある。
しどけなく眠って表情の構えが解かれると、そこにはまさに阿呆の顔が出現してしまうからである。
とはいえ、現代のストレスフルな状況の中では、唯一安らぐはずの眠りの中にも悪夢が襲来して歯ぎしりをしたり、これ以上もないしかめ面でうなされたりして油断もならない。
それゆえに、顔の筋肉に対してことさらにストレッチとリラックスの味を覚えさせることは、まさに今日的な重要な意義があるのである。
ステップ1.眉を上げ、前上方をニラミすえるようにして額に横じわを寄せる。
一呼吸おいて呼気とともにゆっくり力を抜いていく。
視線はそれにつれて落ちていき、まぶたも力が抜けて垂れ下がり、まさに”まぶたが重い”という感じがつかめるようになればしめたものである。
ステップ2.両目のまわりの顔面に力を入れて、目をギュッとつぶる。
同時に両眉や両頬の筋肉も両眼を中心に集まるような感じで力を入れる。
しばらくしたらゆっくり力を抜いていき、ゆるむ感じを味わう。
ステップ3.上下の奥歯をギューッと噛みしめると同時に、両方の口角を左右のエラのほうにひっぱるようにして口を横にひきつるように大きく広げる。
顎の様々な筋肉が歯ぎしりするために緊張するのをよく味わったら、徐々に力を抜いていく。
かくしてほんとうに顔の力が抜けていくと”アホ面”の典型のように、口はダランと半ば開いて、よだれも垂れて出ようかというほどの表情になる。
なお、顔面に関して付け加えるならば、これらのアホ面はあくまでも「作る」のではない。
ただそう「なる」のであるということが大切である。
顔がほんとうの「アホ面になった」とき、心の中も虚心坦懐、荷物にもとらわれない心境が訪れるのである。