八月の路上に捨てる
ハードなトラドラ家業を黙々とこなすシングルマザー水城絵美とシナリオライターへの夢を捨てきれないハンパ生活のアルバイト助手佐藤敦の一日.
シングルマザーによる男勝りの肉体労働を描きながら何かを伝えようとする物語をどこかで読んだ気がしていたが,平成十三年下期の芥川賞受賞作品 「猛スピードで母は」 があったことを思い出した. あの小説には世のシングルマザーたちへの応援歌的な読後感があったがこちらの作品もやや重たい人物像ながら好感の待てるシングル振り.ただ,物語半ばまで絵美を痩せ気味のかっちりしたタイプの女性とイメージしていたのだが,取引先のセクハラおやじに「そこのホルスタイン」と呼ばれる場面で初めて作者のイメージと食い違っていることに気付く.読み手の想像力のせいなのか作者の筆力の問題なのか,これから読まれる方はぜひこの点に注意してみていただきたい.
敦は大学内で知り合った編集者志望の女と脚本家志望の男のカップルの片割れ.
お互いの持つロマンに惹かれての結婚だったが立ちはだかる現実を前に二人とも夢から少しずつ後退していく.そこに生じるすれ違い,理由のわからない嫌悪感そして別れ.そのいきさつを車内で語りながら合間に最後の乗務日となった絵美の一日を描写していく.
三人称をまじえて語られる敦のモノローグには破綻しつつある男女の機微が実にリアルに描かれているのに対して,絵美の方はほとんど行動描写なのに彼女の人生がとてもスッキリと見えてくる.表現方法の対比がなかなかニクイ.このところ暴力描写や不条理な感情を描く作品が続いたような気がするので久しぶりに素直におもしろかったと言える芥川賞受賞作だった.
ハードなトラドラ家業を黙々とこなすシングルマザー水城絵美とシナリオライターへの夢を捨てきれないハンパ生活のアルバイト助手佐藤敦の一日.
シングルマザーによる男勝りの肉体労働を描きながら何かを伝えようとする物語をどこかで読んだ気がしていたが,平成十三年下期の芥川賞受賞作品 「猛スピードで母は」 があったことを思い出した. あの小説には世のシングルマザーたちへの応援歌的な読後感があったがこちらの作品もやや重たい人物像ながら好感の待てるシングル振り.ただ,物語半ばまで絵美を痩せ気味のかっちりしたタイプの女性とイメージしていたのだが,取引先のセクハラおやじに「そこのホルスタイン」と呼ばれる場面で初めて作者のイメージと食い違っていることに気付く.読み手の想像力のせいなのか作者の筆力の問題なのか,これから読まれる方はぜひこの点に注意してみていただきたい.
敦は大学内で知り合った編集者志望の女と脚本家志望の男のカップルの片割れ.
お互いの持つロマンに惹かれての結婚だったが立ちはだかる現実を前に二人とも夢から少しずつ後退していく.そこに生じるすれ違い,理由のわからない嫌悪感そして別れ.そのいきさつを車内で語りながら合間に最後の乗務日となった絵美の一日を描写していく.
三人称をまじえて語られる敦のモノローグには破綻しつつある男女の機微が実にリアルに描かれているのに対して,絵美の方はほとんど行動描写なのに彼女の人生がとてもスッキリと見えてくる.表現方法の対比がなかなかニクイ.このところ暴力描写や不条理な感情を描く作品が続いたような気がするので久しぶりに素直におもしろかったと言える芥川賞受賞作だった.