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泉涌寺仏舎利と鳴き竜

2024-01-17 20:09:09 | 日記

泉涌寺仏舎利と鳴き竜

 仏舎利が特別公開というので拝観に行った。大きなポットくらいの容器に入っているという。つい今しがたの楊貴妃観音の胎内には三粒入っているという話であったが、こちらのポットには一粒であるという。一粒のポットの方が大きな建物に納まっているのは、楊貴妃観音像のファンである私には承服しがたいものがある。  

シャリというからには、米粒大の大きさのお骨と想像されるが、入滅後も多くの願いを聴き届けねばならないお釈迦さんは気の毒と思いながら、たくさんの心願をお願いしておいた。

 この仏舎利殿には、天井の竜の絵が鳴くという。竜であるからにはどんな大きな声かと期待したがか細い声であるのにがっかりした。柏手を打つとその反響音が鳴き声のように聞こえるらしい。それでも竜の声が小さいとか苦情を言うのははばかられるので、嫌味のつもりで(寺院建築の設計の際に反響を計算してのことだと思い)

「うまいこと設計シャはったんですな。」

とガイドのヒトにいうと

「いや偶然ですわ。」

と正直な答えが返ってきた。ここは「ホンニ昔のヒトは賢こおましたな。」という返事があると楽しいところであったんだが。

 寺の中で竜が鳴くというのは、一種のエンタメであろう。私は、宗教は人間生活の中で軍事と生産消費以外の一切を受け持っていると思っている。その中から医療や教育が分化して今は役所が受け持っている。娯楽も宗教が受け持ってきた。この鳴き竜を思いついた人(多分お坊さんだと思うが)は、ヒトには楽しみが必要であることを知悉していたと考えられる。たまたまお堂の反響が良かったのと天井に竜の絵があったので、こういう楽しみ方を作り出したのであろう。(もちろん寺の発展をも考えての話でもあるが。)頭はこのお坊さんのように使うと他の人の役に立つ。

 私の母親の日記には、遠足へ行ってこの鳴き竜にいたく感激したことが綴られていた。本尊である運慶の三体の仏像(これも近くで見たかったが、遠くからしか拝めなかったのは残念である)も、楊貴妃観音像も、本堂の建物は宋様式でこれが珍しいことも一行も触れられていない。ましてや泉涌寺が皇室ゆかりの寺であることも触れられていない。その日記は、戦前まだ太平洋戦争の始まる前の日付けである。