2020.10.27
『獣道一直線』
at PARCO劇場
https://stage.parco.jp/program/judo/
作 宮藤官九郎
演出 河原雅彦
出演 生瀬勝久/池田成志/古田新太
山本美月/池谷のぶえ/宮藤官九郎
配信をご覧になった方もきっと一定程度いらっしゃるだろう。
たまたまチケットがとれて、1つ置きのシートで観られるということで、私は夕方の渋谷に向かった。
ねずみの三銃士の企画第4作目に、ようやく参加できた!
(なんでだろう、今まで、観たいなあと思いつつ、気づいたらチケットの一般も終わっていたり公演自体が終了していたり・・・って、関心なかったんじゃないの?ということか。不明)
怪優の三銃士の「1+1+1=3α」の、芝居という枠を飛び越えた迫力もすごいし、若い山本美月のこちらの期待をはるかに上回るコケティッシュな魅力全開+コミカルな演技も楽しかったけれど、もうこの一言で、私のこの夜は言い尽くせてしまいそう。
「池谷のぶえさんがすごかった!」
モデルはあの事件の?と思い当たる女性。
若くもなく、客観的に見てとくに美貌の持ち主とは思えないけれど、彼女を知った男性3人は、「騙されて?」お金も、なかには命までも奪われるが、その男性3人を生瀬勝久、池田成志、古田新太が演じ、同時に彼らは芝居の中で彼らを演じる「役者」でもある。
宮藤官九郎がドキュメンタリー作家として事件を追い、妻もともどもその女性の「引力」に引き込まれていく。
その「女性」を池谷のぶえが、ときにあの転がるような声さながらにチャーミングにみせたり、ド迫力で男を操ったり翻弄したり。
彼女だからこそ、苗田松子という女性が現実なのか虚構なのは、その狭間でこちらに迫ってくる。
すごいよ、のぶえさん!!
古田新太さんがセリフなのかアドリブなのか、「あと2人役者がいたら楽なのに」とつぶやいていたけれど、たしかにそのとおりで、役者たちは次々に異なる役で姿を見せては去っていく。
その繰り返しの中で、見ているほうは、思い当たる愚かさに自虐的に笑ったり、隣の人が笑っても自分はちょっときつくて笑えなかったり。そんな微妙な温度差もむしろ快適だったりする。
発散することが難しい日々が続く中、あの不可思議な笑いと身につまされる男たちの現状に、現実を見事に忘れさせてくれる濃密な時間だった。役者たちも、舞台に立てる思いを全身でどこかにぶつけているのかもしれない。
苗田松子を見ていると、なんだって自己肯定して生きていくことの強さを思い知らされる。
生きていく中で、あの貪欲な前向き魂はとてもまねできないけれど、せめて一日のうちの密かな時間をそんなふうに過ごせたら、想像できたらいいのに・・・などと、なんとも情けなくちっぽけなことを考えながら、非常階段を8階から出口まで下りて、渋谷の街を駅までスタスタ歩いたのです。
(ちなみに、2か月ぶりの渋谷の夜は、マスク以外は「コロナ」の気配を感じさせない空間で、ある意味それがちょっと怖くて、早足になった私でした)
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