■3月6日
初めてのキス-私の革命
『朝日新聞』夕刊~「ニッポン 人・脈・記」より
「私は初めてのキスのとき自分の中に革命が起こった」by 加藤登紀子
加藤は私の中で一度も興味の対象になったことのない人だけれど、そんな人のこの言葉が心に突き刺さって抜けない。
革命はこの国には似合わぬ言葉だし、この国に本当の意味での革命なんかなかったわけだけど(明治維新はもちろん違うし)、この言葉のもつ魔力が一途な人を闘争に駆り立て、もっと一途な人をアナキストや破壊者に追いつめる…、そういう事実だけは目にしたり耳にしたりしてきた。
ベ平連の記事も数日前にあったけど、フランスデモで私が思い描く(妄想の)革命が起こるとは到底思えなかったし、なんだかまやかしでごまかされているような気がしただけだった。そういう「誰でもできること」が力になれば、その行き着くところに、魔力の実現があるのだと、本当に思わせてくれればよかったのに。
血の匂いがしなくても、世界が変わることがあるんだろうか。
と、そんなことを思いつつ「初めてもキス…」だ。一瞬にして、一夜にして、世界が変わることだってある。そういう思いをたしかに覚えている。加藤はそれを「革命」という非日常語で表現してみせた。
あの朝、人の波に流されながら、私は自分と自分を取り巻く空気が昨日とは違う匂いと手触りでそこにあるのに気づいていた。どんなに努力をしても自分を変えることなんてできないとわかっていたのに、私はお酒の力をちょっと借りて、たやすく私という名が刻印されたハードルを越えられたのだ。
あれを「革命」だと思っていいのなら、私のちっぽけな歴史は確かにあのときから運転を始めたような気がする。そしてあれ以上の鮮烈なイベントにも出会ってないような気もする。それが幸せであろうとなかろうと、私は二度と革命は起こせないんだろう、自分のなかでは。
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