kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

広島県立美術館特別展「広島・長崎被爆70周年 戦争と平和展」

2015年07月27日 | 展覧会
「広島・長崎被爆70周年 戦争と平和展」
会場:広島県立美術館
会期:2015年7月25日~9月13日

被爆・戦後70周年ということで、今年はいたるところで戦争映画を見ることができるという夢のような・・・いやいや経験しがたい夏。

美術館でも平和に関する展覧会が多い中、「芸術家は戦争とどう向き合ってきたのか」という興味深いテーマの本展。
戦争を真正面から描いた絵画などなかなか見ることができないし、入野忠芳氏の作品も見ることが出来るのだから行かない訳にはいかない。

まず近代戦の幕開けとして、ナポレオン戦争当時の絵画が展示されているが、スヴェバックの「タルボ山の戦い」などなかなかの迫力。
手前に指揮官、行進する兵隊、搬送される大砲、遠くに見える戦場・・・まさに陸戦の醍醐味であり、こういった絵画を描けるのは欧米の作家ならではだろう。

ところがまじまじと細部まで見ると、どうもパースがおかしい。遠方で方陣を組んでいる敵がやたらデカく、城塞らしき周辺とのバランスを明らかに欠いている。図録でみても気付かないので、現物ならでは気付きだ。

第二次世界大戦中に描かれた作品は、ワタシ個人としてもっとも気になるところ。
原爆の凄惨さや平和への希求を描いた作品は、広島にいるといたる所で目にすることができるのだが、その対極にある戦争画をまとまった数で観覧できるのは、なかなか無い機会だ。たぶん、日本の戦争画をまとまった点数で所蔵している美術館など無いのではないだろうか。飲み会で作家の人と話したときも、この戦争画の展示が一番気になるようだった。

これらの絵を観て、ワクワクするものがあっても間違いではないだろう。元々、戦意高揚を目的として描かれたものなのだから、それだけ絵の目的を達成していたと言える。ただ、中で一番、良かったのが、陣地構築の兵隊を描いた今井憲一の「穿壕指揮」。どうもワタシは根本的に肉体労働者をテーマとした絵画が好きなようだ。労働は喜びだ。

気になったのはベン・シャーンの「強制収容所」。1944年の作品なので、ナチの絶滅収容所を描いたものとは思えない。ユダヤ人ゲットーを伝聞で描いたものなのか、それともアメリカにあった強制収容所なのかで、作品の意味合いも異なると思うが、その辺は解説が欲しかった。

しかし、今回、一番心打たれたのはオットー・ディックスの一連の「戦争」作品だ。第一次世界大戦に歩兵として参加した経験ほかを絵画にしているのだが、まさに戦場にいたものでしか描けない絵画だ。
戦争を描いた絵画は、現実に見たものと伝聞で描いたもの、想像で描いたものの線引きがあいまいになりがちで、例えば「爆撃を受けるランスの街」などは明らかに現地にいたとは思えないので想像が入っているのだろうし、無残に死んだ兵隊の描写は何となく誇張が入っているように思える。(異様な迫力に満ちているのだが)

しかし、「照明弾に照らされた弾孔だらけの平原。ドントリアン近郊」と「榴弾の孔に咲く花(1916年春、ランス近郊)」などは、本当に戦場、しかも第一世界大戦の塹壕戦に身をおいていた人間でしか見ることができない視点だ。ワタシはそこに心を打たれた。些末な一幕にしか過ぎないのだが、本当の戦争を描いていると思う。付け加えるなら、「榴弾の孔に咲く花」の花などは、ひとつの季節が巡るくらい膠着した塹壕戦の実態さえ、垣間見えるかのようだった。

なかなか見ることができない作品群で、刺激的な展覧会だった。

ところで、開会初日に行ったものだから、TVニュースにも映っていたらしい。行き当たりばったりの飛び込みに近いスケジュールだったから、よれよれでグダグタの敗残兵のような風体だったと思う。
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