日時:2月24日
映画館:イオンシネマ広島

第二次世界大戦直後、ナチの強制収容所から辛うじて生き延びたハンガリーの建築家、ラスーロー・トートがアメリカに渡り、有名なヴァン・ビューレン・コミュニティーセンターを建てるまでの物語。



アカデミー賞最有力の呼び声とAI技術を使った製作への賛否で話題になっているので劇場へ。
と上映時間を見たら、なんと3時間35分!(うち15分はインターミッション)
なのだが、上映時間を感じさせない、もしくは現代の配信ドラマ1シーズン分にも似た重厚な物語。
トートは終戦後、欧州に妻と姪を残し、家具屋の親戚を頼ってアメリカに移民する。元々、戦前はハンガリーで名建築物を建てていた彼は家具屋でもその才能を発揮し、やがて資産家のヴァン・ビューレン家から書斎の改築を依頼され、ほぼ完成させる。
しかし、ちょっとした行き違いから仕事は認められず、親戚とも袂を分かつ。数年間、肉体労働で日銭を稼ぐことになるが、ようやく彼の作品と才能に気付いたヴァン・ビューレンから壮大なコミュニティセンターの建設を依頼される。(彼の設計する建築様式はブルータリズムであり、タイトルの「ブルータリスト」はここからきている。)
建設がスタートして間もなく、ようやく欧州から妻と姪がアメリカにやってくる。しかし、妻は飢餓による骨粗鬆症から下半身が不随の車いす生活となっていた。 トートは自身の壮大なプロジェクトを実現すべく邁進するが、それは建築費用の高騰による周囲との軋轢を生んでいく。
さらに妻との夫婦関係もぎくしゃくし、現場では事故が発生、工事は中断することになる・・・
トートを演じるのはエイドリアン・ブロディ。彼と強制収容所と言えば「戦場のピアニスト」だが、個人的には凄腕の傭兵を演じた「プレデターズ」もお気に入りだったりする。
トートは女性にだらしなく、酒もヘロインもやるというかなり問題ありの人物。パトロンをバックにできたアーティストとして、何事にも妥協せず、かの大作に挑んでいく。
ブロディのつかみどころのない表情が役どころにピッタリ。ドロドロした内面と数十年分の外面の変化を演じて、アカデミー賞委員会も好きそう。
資産家ヴァン・ビューレン役はガイ・ピアース。彼も壮年役が似合うようになった。偉大な芸術家を応援するのは自分たちの義務だと語る一方で、その才能には秘かに嫉妬している。こちらも複雑な人物造形で助演男優賞にノミネートされている。(ただ、個人的は「アプレンティス」のジェレミー・ストロングに軍配が上がる。)
映画は全編通して、重々しい空気感が漂う。オープニングから印象的なダニエル・ブルームバーグの重厚な音楽、屋外シーンのほとんどは雨か曇り空で工事現場は泥だらけ。装飾を排したブルータリズムの建築がそれに輪をかける。(実在の建築物とセットの使い分けが見事。)
移民であるトートや労働者たちと周辺の資本家連中との人間関係もずっと緊張感をはらんでいるし、全編を通して描かれるユダヤ人としてのバックボーンが時としてて重荷になる。最後はコミュニティセンターが完成すると分かっていても落ち着かず、どこにも安心感がない。それがトートの心象ともいえるのだろう。
そして、エピソードをぶつ切りにし、先が読めないストーリー展開。まるで広島市映像文化ライブラリーで上映される芸術映画のようだ。
トートとヴァン・ビューレンがその後、どうなったのかと映画鑑賞後、Wikipediaを調べてみたら
【以下、ネタバレあり。】
検索結果に何も出てこない。
なんと、この物語、映画オリジナルのフィクションだったのだ!
すっかり実録物だと思っていたし、ヴァン・ビューレン・コミュニティセンターは実在すると思っていた!!
それだけ映画作りが巧みだということだ。
実録物映画は多数あるし、実在の人物を描きながら途中から突拍子もない展開になる映画「ビューティフル・マインド」「ドミノ」とかもあった。
しかし、完全にフィクションの物語を実録風に描く映画はあまり思いつかない。それだけストーリーや描写に説得力を要求されるし、辛うじて思い出すのは「バリー・リンドン」くらいか。
実録物を錯覚するくらいに時代背景の描き方が巧みだし、錯覚する要因の一つが登場人物の描き方で、善悪の区別がなく、トートとの関わりに決着がない。
通常は何かしら主人公との関係性にオチがつくのにそれが全く存在しない。突然、ストーリーから脱落していく。
演出としても面白く、上演時間こそアレだが、今度はフィクションを分かった上で最初から観たくなった。
その面白さゆえ、評価は ★★★★☆
ところで写真は観客を混乱させる副読リーフレット。よくできてる。「架空の内容です。」の注意書きにも気付かず、すっかり騙された(笑)
題名:ブルータリスト 原題:BRUTALIST 監督:ブラッディ・コーベット 出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース |
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