この数日、知人から次のようなメールが来ました。
――“あのランチボックス”……その後どうなりましたか?
また、インテリアコーディネーターの教え子でもあった女性は、
――ミスターランチボックス、ずっと気になっています……。
彼らの関心は“筆者のこと”より、“ランチボックス”の方にあるようです。それにしても“気になる存在”として「ミスター」とまで呼ばれる「ランチボックス」――。何とも羨ましい。
だが“ミスター・ランチボックス”は、すでに「ランチボックス」としての“職務”から引退しています。そのため、今後はその華麗なる外観の色調に敬意を表し、「ミスター・ネイヴィーブルー」と呼ぶことにしましょう。
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『ランチボックスのエレジー:(下)』のラストシーンをご記憶でしょうか。筆者が「弁当専門店」の「弁当」に切り替えるとの決意を言葉にしたとき、それは「ランチボックス」との“別れの瞬間”を意味していました。
しかし、その“別れ”とは「ランチボックス」としての“使命”を終えた“別れ”であり、「ランチボックス」そのものが筆者の元から消え去ったわけではありません。事実、“彼”は拙宅におり、いつも筆者の身近にいます。どうかご安心ください。
今思えば、「ミスター・ネイヴィーブルー」の「ラッチボックス」としての“現役生活”は、わずか十数日にすぎませんでした。それも「ランチボックス」らしい“起用”を受けて登場したのは、その半分いや三分の一にも充たないでしょう。
もし彼が「プロ野球」の「投手」であったなら、まことにアンラッキーな選手であり、不本意な起用に遭遇したことになります。チームに迎えられ、「先発投手」として起用されたその“初日”に、肩に違和感を覚えたというところかもしれません。
それでも、かっての「神様、仏様、稲尾様」よろしく、翌日もその翌日も起用され……その後、「故障者リスト」入りしてメジャーリーグのブルペンから姿を消したということになるのかも……。
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とはいえ、いつまでも過去を引き摺っているわけにもいかないようです。……そこで“彼”の近況報告を――。
現在、彼はベテラン(引退者)として静かに“余生”を送っています。といっても、何もせずにぶらぶらしているわけではありません。「冷蔵庫」の中に自分の“居所”を見出した彼は、ちょっとした「おかず類」の管理責任者つまりコーチとしてプレーを続けています。
「辛子めんたい」を受け入れる時もあれば、「佃煮」類の時もあるようです。「中仕切り」も健在ですが、どちらかといえば、液体系が苦手のようです。そのため、「イカの塩辛」を担当することはないのかもしれません。
他の「おかず入れ」が色身のないものばかりであるため、冷蔵庫を開けたとき、眼に飛び込んでくる「ネイヴィーブルー」は、よく映えます。もちろん、“あの蓋付き”です。
もはや「ランチボックス」として筆者と一緒に移動することはありません。そのため、バンドできつく全身を拘束されることも、外力の抑圧を受けることもなく、静かに冷蔵庫という平穏な空間の中で時を過ごしています。
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彼が再び「ミスター・ランチボックス」として起用される日があるかというご質問ですか?
う~ん……どうでしょうか。おそらく当分はないのではないでしょうか。
なぜなら、“あの監督”――。あの後に入って来たうら若き麗しきY嬢と、「ミスター・ランチボックス」の引退のきっかけを作った……つまり「弁当専門店」のランチを勧めたTさんとの「ランチタイム」を堪能しているからです。
二人の美女と“同じランチ”をともにしながら、少し鼻の下を伸ばした“あの監督”の表情を見ている限り、「ミスター・ネイヴィーブルー」が再度「ミスター・ランチボックス」に戻る可能性は、今のところ限りなく……に近いような気がしますが……。
もちろん、気まぐれ屋の“あの監督”のこと、いつなんどき……ということもありえないわけではありません。
……ということにしておきましょうか。