『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

◆生者の息と死者の灰/『シンドラーのリスト』:No.10

2015年03月02日 00時01分49秒 | ◆映画を読み解く

 

37. への点呼

  「移送列車」に乗り込むための “点呼” が始まる――。

……「ドレスナ―一家4人」、「ローズナー一家」ことに「オレク・ローズナー少年」(便漕の中に隠れようと飛び込んだ少年)、「カイム・ノバック」(本来は歴史と文学の教師。シュターンにより「技術者」の身分証明書を作って貰う)、「イザック・シュターン」(シンドラーの最大のパートナー。会計士)、「ヤコブ・レヴァルトフ」(蝶つがいを製作していたユダヤ教のラビ。危うくゲートに射殺されるところでした。後に「DEF」へ)、「ポルデク・べファーリング」(物資調達専門)と「ミラ・べファーリング」夫妻、「アダム・レヴィ」(鶏泥棒事件のとき、ゲートの質問を巧みに交わした少年。「DEF」へ)、そして「ヘレン・ヒルシュ」(ゲート邸のメイド)――。

 

 38. 雪景色の中を走る蒸気機関車――。駅名表示。列車の到着。

  「チェコのブリンリッツの町―シンドラー故郷

   ホームで待ち受けるシンドラーの姿。「プワシュフ強制労働収容所」から来た「男性の労働者達」が並んでいる。やがて、今度の「工場監視兵」のトップが自慢げに言う。「私が監督する(強制労働)収容所は “生産性が高い”」と。しかし、シンドラーはひとこと返しただけで無視し、ホームの上に立っていた監視兵を下に降ろす――。

  男性陣に挨拶するシンドラー

「女性たちもまもなく着く。……熱いスープとパンが君らを待っている。ブリンリッツへようこそ!」 

  しかし、「女性達の乗った列車」は、書類上のミスにより、とんでもない処へと向かっていたのです。

 

  “生”と“死”の対比

39. 煙突の煙 と 降灰

   実は、女性達の乗った「貨車」は「アウシュヴィッツ」へ向かっていた。不安げな表情の車内の女性達。「ヘレン・ヒルシュ」の顔も見える。到着した「貨車」から降ろされた彼女達を待ち受けていたのは、「アウシュヴィッツ絶滅収容所」(※註1)――。

   夜間照明に照らし出された「夜空」から降りしきる「大粒の白いもの」――。そうです。決して「雪」ではありません。それは、煙突から吐き出される「」、すなわち“焼却死体から出る骨灰” です。映像効果としても、「モノクロ」だけが持つ凄さであり、“完了した死のにおい” と “これから始まる死の気配” に満ちています。

   黒い……暗い夜空。眩いばかりの照明灯の光の白さ。その逆光の中、戸外の寒さに震えながら女性達が “大きな白い息”を吐いています。彼女達のその “白い息づかい” を遥かに凌ぐ「大粒の白い灰」が、全身に降り注いでいます。どこまでも白く照らし出された降灰……。そしてその「降灰」を吐き出し続ける巨大な煙突――。不気味な煙の塊が、阿鼻叫喚のように激しく迸り続ける……。

   “大きな白い息づかいが意味する”……

   吐き出される白い降灰が意味する”……

   その対比を、「映像」は余すところなく描き出しています。「モノクロ」にして、はじめて為し得る“世界観” といえるでしょう。ここにも “哲学性と芸術性” が、静かに、しかし、深い哀しみと遣り切れなさを秘めて描かれています。

   優れた「シーン」構成です。「映画」の素晴らしさを痛感します。もう一度、「映画館」の迫力ある大スクリーンで観たいものです。

  一段と寒さが厳しいような「アウシュヴィッツ収容所」――。小走りにバラックへと走り込む女性達。戸外の異様な様子に、丸眼鏡の少女ダンカ・ドレスナ―」が尋ねます。

ママ。ここは、どこ?」

 この頃、すでに男性達が到着している「ブリンリッツ」では、女性達がアウシュヴィッツへ送られたことに憤慨するシンドラーの姿があります。

 

40. ガス室?!

   「アウシュヴィッツ」において強制的に髪を刈られる女性達。ドイツ語やポーランド語などが入り混じっている。その後、衣服を脱がされ、「浴場、殺菌室」と表示された大きな房(部屋)へ入る女性達――。

   以前、この収容所の「ガス室」の噂話をしていただけに、彼女達の恐怖は尋常ではありません。怯えた表情で入って行きます。その天井には、「シャワーの放水口」があるようにも見えますが……。彼女達はいっそう恐怖と不安を募らせながら天井を注視しています。そして照明が消えた瞬間、房内に女性の恐怖と諦念を帯びた叫び声が激しく響きます。

   しかし、再び照明が入った後、天井から出て来たものは「シャワー水」でした。安堵と歓喜に満ちた女性達の叫び。

       

   シャワーを終えて宿所へと向かう彼女達の全身を、夥しい “骨灰” が降り注いでいます。彼女達は、電流の通った鉄条網の向こう側に、力なく歩いて行く男女の一団を眼にしますが、その一団は、凄まじい勢いで煙を吐き出す煙突がある棟に向かっているのです。これらの人々は、まもなく「ガス室」へ降り、最後は空から舞い降りる「白い灰」となっていくのですが……。この “沈黙” の中にも、“生と死の対比” が、そして “哲学性と芸術性” が静かに描かれています。

       

   翌日、整列させられている女達。少女ダンカの母親が、自分達は「シンドラー工場の者」であり、間違ってここに来た旨を主張しています。

 

41.  女性達を買い戻すシンドラー

 書類上のミスによって「アウシュヴィッツ絶滅収容所」へ送られた女性達を買い戻すために、所長と取引するシンドラー。小さな袋から沢山のダイヤモンドをテーブルの上に拡げる。「持ち歩ける財産が必要になる」と言って“買収”しようとしている――。

賄賂の提供となれば、逮捕される可能性もあるのですが、シンドラーは「自分には有力な友人(人脈)が大勢いる」と開き直っています。相手は、眼の前のダイヤモンドの散らばりを見て――、

「受け取るとは言わん。机に載っていると気になる」

  といってダイヤを拾い集め、ポケットにしまうのです。

 

42. 乗車のための点呼と到着

  「ブリンリッツ」へ行くために列車に乗ろうとしている女性達。泣き叫ぶ或る少女の声の先に、ダンカその他の子供達を大人の列から引き離そうとしている警備兵。シンドラーが駈けつけ、子供たちが“熟練工”であることを強く主張する――。

  その証拠としてシンドラーはダンカを抱きかかえ、女の子の「小さな手」を警備兵に見せながら、「この手が45mm砲の奥まで入ってその内側を磨く」と強調。「小さい手」だからこそ、研磨が可能だと言っているのです。

  彼女達は、今度は無事にシンドラーの待つ「ブリンリッツ」に到着しました。

 

43. シンドラー独自の工場ルール

  工場の監視兵に厳しく伝えるシンドラー。その内容は、“勝手な処刑” や “シンドラーの許可なく工場内への立入り” を禁止するもの――。

  他の「収容所」では考えられないほど囚人(ユダヤ人達)を保護する内容であり、独自のルールを確立しています。シンドラーが経営者であり、彼の私財で建てた工場ですが、一応 「ナチス・ドイツの軍需工場」であるため、ナチス・ドイツの監視兵が付けられているのです。そのため、「快く協力してもらうための飲み物のサービス」という “懐柔” も忘れないシンドラーです。(続く)

 

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 ※註1 一般的に「絶滅収容所」と呼ばれてはいても、「強制労働収容所」の性格もありました。同様に、「プワシュフ」や「マウトハンゼン」の「強制労働収容所」も、“日常的な暴行” や “殺戮” と言う意味では「絶滅収容所」としても機能していました。

 実は、アンネ・フランクも、「隠れ家」を発見された直後は、アムステルダム(オランダ)の「ヴェステルボルク収容所」へ送られ、その後 “臨時措置” として、この「(アウシュヴィッツ)=ビルケナウ収容所」の「女子収容所」に送られて来たことがあります。このときは、“労働可能”として、「ガス室」送りを免れています。