◇城氏の “命日”
今日、2月25日は、伝説のナレーター・城達也氏の命日です。氏は、1967年7月3日から27年間、7387回にわたって『JET STREAM』のナレーションを担当しました。そして1995年12月30日、この「音楽定期便」のラスト・フライトを終え、その2か月後の1996年2月25日、死へと旅立ったのです。享年63歳でした。
実は筆者は、今日にいたるまでこの「番組」を、一度もリアルタイムで聴いたことがありません。1967年と言えば、筆者は大学受験予備校へ通っており、翌1968年4月に大学に入学しています。
◇“なま” で触れた城達也氏の「詩」の朗読
筆者が「城達也」という名前を初めて知ったのは、大学を卒業した翌年の1973年12月、東京での妹の「結婚披露宴」に出席したときです。その「司会進行」を務めたのが城氏でした。このとき、筆者はたったひとりの身内の撮影者として、料理をほとんど口にすることなく、とにかくシャッターを切り続けていました。「司会者」をゆっくり観察するといった余裕はありませんでした。
それでも、司会者・城氏の“洗練された立ち居振る舞い”や“端正な顔立ち”、それに“軽妙な語り口や魅惑的な声”については、すぐに感じていました。このとき、城氏は42歳。男として、もっとも勢いのある時期といえるでしょう。
しかしそのとき、筆者が何よりも驚き、そして感動したことがあります。それは城氏が、「詩の朗読」をしたときでした。その「詩」は、黒田三郎の『明日』という作品でした(※次回、全文を紹介しましょう)。
明日などはなかった
この世の汚辱のなかで 滅びるに任せようと
明日のないその日その日を送る以外に
僕にはどんな運命もありはしなかった
……という最初の一節から、内容は無論のこと、その素晴らしい声とテンポと抑揚と間の取り方とに、たちまち魅了されたのです。 “ 魅了 ” というより “ 驚き ” といってよいでしょう。
筆者も文学青年の端くれとして、多少、詩人・黒田三郎のことは知っていました。しかし、特に彼の詩が好きというほどではありませんでした。だがその後、さっそく黒田三郎の「詩集」を買い求め、しばらくの間その詩の世界に“はまった”ものです。「院浪」つまりは「大学院受験浪人中」の頃でした。
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今でこそ、多くのフアンによって語り継がれる『JET STREAM』。そして、そのナレーションを務めた城達也氏――。だが1973年12月の時点では、それほど知られてはいなかったようです。それもそのはず、同番組は当初、東海大学の試験放送局「FM東海」としてスタートしたものであり、全国放送となったのは1970年4月からです。筆者が参加した披露宴当時の首都圏では、やっと3年半の「番組」にすぎません。
ましてや、まともにラジオを聴くこともなかった筆者にとって、氏は、少なくとも「詩の朗読」を聴くまでは、「ただの司会者」でしかなかったのです。今思えば、なんと “ 贅沢な朗読 ” でしょうか。ファンであれば、それこそ “垂涎の時間 ” となったことでしょう。
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それから20数年――。知人より、筆者の声が城達也氏に似ていると言われたことがあります。数日後、彼は『ジェット・ストリーム/城達也』というカセットテープを持ってきました。聴いていたところ、当時、小学生だった娘が、『お父さんの声?』と尋ねたものです。
今思えばそのとき、城達也氏はすでに故人となっていました。その後、やはり誰かに『声が似ている』と言われ、少し意識し始めたような気がします。城氏の風格ある喋り方や余韻を感じさせる声は、当時、「セミナー講師」を「本業」としていた筆者にとって、大いに参考になったものです。そのため、以下の「メッセージ」や、番組終了時の「エンディング・メッセージ」を完璧に暗唱しようとしました。おかげで、今でもしっかりと記憶しています。
黙祷…………………。 [下]に続く
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JET STREAM
の ナレーション・メッセージ
遠い地平線が消えて
深々とした夜の闇に心を休めるとき
遥か雲海の上を 音もなく流れ去る気流は
たゆみない宇宙の営みを告げています
満点の星をいただく 果てしない光の海を
豊かに流れゆく風に心をひらけば
煌(きら)めく星座の物語も聞こえてくる
夜の静寂(しじま)の、何と饒舌(じょうぜつ)なことでしょうか
光と影の境に消えて行った
遥かな地平線もまぶたに浮かんでまいります
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◆『ジェット・ストリーム』(城達也ラストフライト):tarerouさん編集(9:52)
20年近いでしょうか。ありがたいことです。思いもかけず、このような場で旧交をあたためることができるとは。
人間の「声」は、当然のことですが「衰えて」いきますね。私も昔のようには「声量」も「声の伸び」もないのかもしれませんが、それでも年齢の割には「よく出ているのでは」……とは「まわりの方々」の感想です。
当時の女性社員のみなさんも懐かしいですね。お顔はよく憶えております。よろしくお伝えください。
コメント、ありがとうございます。