電気通信視察団の数奇な経験談 その6 モロッコ編(1)
関東電友会名誉顧問 桑原 守二
[ジブラルタル海峡を渡る]
平成13年はポルトガル、モロッコ、フランスの視察である。4月10日にポルトガルでの公式行事を終えた視察団は早朝にリスボン空港を飛び立ち、マドリッド経由でマラガ空港に着いた。ここはスペインの観光地コスタ・デル・ソル(太陽海岸)だ。昼食を済ませた後、バスで海岸を西に走り、ジブラルタル海峡から近いマルベリャに一泊した。翌朝海峡を船で横断するためである。
スペインの港アルヘシラスからモロッコのタンジールまでフェリーが2時間半で結んでいる。海峡の一番狭いところは13kmであるが、フェリーは斜めに横断するので60kmの航海である。朝9時半に出港の予定だが、突然早く出ることもあるというので8時に港へ行った。帰国してから読んだ「地中海浪漫」という旅行記には「出国手続きが混雑し時間がかかった」とあったが、我々の場合はガイドがまとめて出国処理をしてくれ、また我々の他に数10人しか乗客がいなかったせいもあって、さほどの混乱もなく乗船できた。9000トン、定員1000人の大きなフェリーにはパラパラとしか人影がない。
ジブラルタル海峡を渡るフェリー
予定時刻から15分遅れで出港した。目の前に大きな半島が突き出ている。これがジブラルタルである。島のように見えるが、大陸と砂州で繋がっているという。高さ425mの岩山が要塞化されており、見えている反対側の斜面に海峡を睨んで大砲が並んでいるとガイドから聞いた。不勉強で、ジブラルタルが英国領になっていることを知らなかった。百科事典で調べると1713年のユトレヒト条約以来、英国が領有しているとある。スペインが英国に返してくれと言い続けているが、聞き入れてもらえないのだという。
1時間も遅れてタンジールに到着した。ガイドが「インシュアラ(神の思し召しのまま)の世界ですから」と言い訳をした。ここで時計を2時間遅らせる。モロッコとスペインには2時間の時差がある。真南に海峡を渡っただけで2時間違うというのも妙な話だ。スペインはヨーロッパ標準時の最西端であり、夜明けも、夜暗くなるのも遅かった。モロッコに来て、ようやく日本と同じ時刻感覚になった。
この辺りの緯度は日本の何処にあたるかが議論になった。「リスボンは盛岡と同じ緯度」とポルトガルのガイドが言っていたので、タンジールは東京ぐらいだという意見があったが、これが正解だった。ある人は「南緯じゃないですか」と言った。アフリカはすべて赤道より南にあると勘違いしていたらしい。アフリカは南米よりずっと北に位置しているのだ。