
夜、オレコと散歩していたときのこと。
むこうから大柄なおばさんが歩いてきて、
なにやらぶつぶつひとりごと。
突然、大きな声で、
「しろや~い」
と誰かを呼んでいる。
相手は、私たちのようでもあるし、違う誰かのようでもある。

「なんなのかしら、あのおばさん」
どんどん近づく大きな影は、
「お~い、しろじゃないのか、しろ、おまえしろじゃないの?」
といい続ける。
逆光のためにどこを見ているのかわからない以上、
こちらもどうしていいのかわからない。

大きな黒い影は、
白い歯をニヤリと見せて(それ以外は見えない)、
「あ、な~んだ。
ちがうべな~。
ごめんな、ごめんな。
しろかとおもったよ~。
そーっくりなんだに~」
とわらって、去った。

しかしそれすら、誰にいったことばかわからなかった。
あとで聞いたら、オレコもどきどきしていたそうだ。
和田浦のうな陣のおかみさんと同じくらい怖かった。
(うな陣のおばちゃまは乱暴ものっぽさがこわいけど、実はいい人)