すぎな之助の工作室

すぎな之助(旧:歌帖楓月)が作品の更新お知らせやその他もろもろを書きます。

時に浮かぶ、月の残影32

2005-07-17 01:46:04 | 即興小説
塔から望む風景は、いつも月夜。
過去と未来にとりまかれた、月夜。

自分の右脇で眠る女の顔を見た。
両目にくまができていた。
「睡眠不足もあり、か」
お疲れだったんだね、桔梗、とささやいて、その青紫の髪をなでてやる。
……死んだように眠っている。
「このまま死なせてやりたいけれどね……でも、できないことだし」
何度、この様を見てきたことか。
あの、「気の強い女」のままで終わらせてやりたかった。自分としては。
自分たちについて来なくとも、よかったのだ。
選んだのは、桔梗自身だったが。
この長い時を……。思いと、課せられた使命とがなければ、正気で生きるのはたやすいことではない。
こうして眠る桔梗に、何度この言葉をささやいたことか。
「あの時、決意を伝えた君を、なんとしても追い返すべきだったんだろうね。私たちは。……すまない、桔梗」

「菊……菊、」

眠る桔梗の唇から、彼女の名がもれた。
月になった彼女の、名が。
李両は、開いている扉の向こう、書斎の窓から見える月を見た。
きれいだね。菊。君は。

「菊……ごめんね、」

女の声に、李両は首を振った。
「すまない。桔梗」


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