すぎな之助の工作室

すぎな之助(旧:歌帖楓月)が作品の更新お知らせやその他もろもろを書きます。

時に浮かぶ、月の残影31

2005-07-17 01:26:02 | 即興小説
「薬は嫌! 薬なんかもう嫌!」
李両の寝台に寝転がされると、桔梗は狂ったように泣き叫んだ。
「嫌よ怖いわ怖いの! もうあんな思いしたくないの! 薬だけはやめて!」
番長はむっとして返事をする。
「まるで私が君を薬漬けにしてきたように言うな? 自分だろう? 勝手に薬品庫から持ってきては乱用して……中毒になって、」
「死ねなかった! 死ねなかったのよう! せめて、『生きない』でいたかったのよう」
李両は桔梗の腰の上にまたがると、何かの発作のように暴れる彼女の両腕を掴んで寝台に押さえつける。
「『死なない』んだよ。知ってるだろう? ああ、今何をいっても無駄か。荒れてるからなあ。ほら、いい子だ桔梗、」
声の調子を落とし、凪いだ海のように穏やかなものに変えて、李両は桔梗にささやきかけた。
「だったら、あの時、死を選べばよかったんだよ? そうしたら君は今頃安らかに眠っている。……どうして生きることを選んだ? こんなに辛いのに」
「翔伯がいたか
「嘘だね」
皆まで答えさせることをせずに、李両は青紫の髪の女の唇をふさいだ。
知っているのだ。何をどうすれば桔梗が大人しくなるかも、なにもかも。……長い時を生きてきたのだから、一緒に。
言葉を奪って深い口付けを交わして、体の自由を奪って、
「嘘だね桔梗」
言葉を奪って。
「君は私しか見ていない。そうだろう?」
体の自由を奪って。
「……この、性悪! あたしはそんな」
「嘘だね」
桔梗から何もかも奪って、自分のものにして、そうして快楽を返して、溺れさせて、荒れた自我をひととき消してやって。

そしたら、また、しばらく生きられるだろう?
桔梗。可哀想な女。


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